アーセナル優勝と、Googleが描く科学の未来
朝起きると、イングランド・プレミアリーグの優勝チームが決まっていました。 ついにアーセナルが悲願の優勝を果たしたようです。日曜日、優勝の瞬間を見届けるために準備をしていたのですが、まさかライバルのマンチェスター・シティが自滅する形で決まるとは予想外でした。
今日、街を歩いていると、すれ違う人たちから「アーセナルおめでとう!」と何度か声をかけられました。 以前、私の大好きなバルセロナが優勝した時は誰も何も言ってくれなかったのに。ケニアの人たちのプレミアリーグに対する熱狂と、アーセナル人気の高さを改めて実感しました。(※ラ・リーガは不動のバルサ、PL今季はアーセナルと公言していました。)
ただ、個人的にはプレミアリーグの結果よりも、同じタイミングで開催された「Googleキーノート(Google I/O)」の方が、遥かに重要度が高く、ワクワクするイベントでした。
今回の発表では、Geminiの最新モデルや、より自律的に動くエージェンティックAI、さらには新しいAIグラスなどが公表されていました。先日Metaもスマートグラスの展開を本格化させたばかりですが、特定の職業や利用シーンにおいては非常に実用的なデバイスになっていくと思います。ただ、スマホレベルまで一般的に普及するとは個人的には思いません…
数ある発表の中で、私が最も強い興味を惹かれたのは「AI for Science」の分野でした。特に、気象情報の圧倒的な精緻化は、毎年のように災害に見舞われる日本にとって、極めてインパクトの大きい技術革新になるはずです。また創薬の分野においても、急速な高齢化が進む日本社会の課題を解決する強力な一手になるでしょう。
農業の分野においても、気象データや病害虫予測は命綱です。 人工一般知能(AGI)がもたらす未来がユートピアなのかデストピアなのかは分かりませんが、少なくとも日本が直面している多くの課題に対する強力な解決策になることは間違いありません。GoogleやOpenAI、Anthropic、そして不気味なほどのスピードで追従してくる中国企業の今後の動きが、本当に楽しみです。
「代打」を立てる重要性と、お酒造りの滅菌
さて、テクノロジーの未来に思いを馳せた後は、目の前の泥臭いリアル、キノコ栽培のスタートです。
今日は、以前からコネクションを作っていた先進農家の方を招き、事務所の同僚やパイロット農家さん向けにトレーニングを実施してもらいました。
これが、想像以上に大正解でした。 私がどれだけ正しい知識を論理的に説明するよりも、現地の第一線で実績を出している「プロ」が話す言葉の方が、同僚や農家たちの心に何倍も深く、鋭く刺さっているのが分かりました。
「何かを伝えたい時、自分が直接言うのではなく、最適な代打を立てて代わりに語ってもらう。」これは、異文化の壁を越えて人を動かすための、極めて有効なアプローチなのだと学びました。
トレーニングは30分ほどの座学から始まりました。ケニアにおけるマッシュルーム市場の現状や、栽培から収穫、出荷までの全体像を丁寧に説明してもらい、質疑応答を行います。

その後はすぐに、畑へ移動して実践作業へ。 キノコのベッドとなる培地(バガスやバナナの葉などの農業廃棄物をミックスしたもの)を配合し、専用のビニール袋へ詰めていく作業です。 袋詰めを終えた培地は、ドラム缶を使い、薪の火でじっくりと蒸して滅菌します。ドラム缶から立ち上る白い蒸気と火を管理する様子を見て、同僚が「なんだか、お酒を造っているみたいね」と楽しそうに笑っていました。

実践こそが最高の教科書
今回はトライアルとして約200袋の仕込みを行う予定でした。 しかし、実際に手を動かしてみると、これが文字通りめちゃくちゃ大変な作業でした。
袋詰め作業は、一人では物理的に絶対に終わりません。 作業を手分けして、複数のメンバーで息を合わせて進めなければ、途方もない時間がかかってしまいます。結局、今日は他の作業も並行しながらとはいえ、大人3人がかりで180袋を詰めるだけで、丸半日を費やすことになりました。
さらに、袋詰めが終わった培地を滅菌するドラム缶には、1回につき約60袋しか入りません。 そして、1回の蒸し作業には「4時間」もの時間がかかります。常に火力を維持しなければならず、この熱量とプロセスの管理は、想像を遥かに超える重労働でした。

やってみて初めて、頭の中のシミュレーションと、現場の手触りとの間のギャップが見えてきました。 「やっぱり、セオリーよりも実戦だな」
同僚から、トレーニングを始める前にこんなアドバイスをもらいました。
「作成した栽培マニュアルは、今はまだ農家たちに渡さないで。まずはとにかく、彼たちに直接手を動かして学んでもらう。マニュアルを渡すのは、トレーニングが全て終わってから。何より大事なのは、実践だから」
日本で働いていた頃、私は常にPCの画面と向き合い、綺麗に整理されたドキュメントやマニュアルを作ることに心血を注いでいました。 しかし、現場を動かすのは、紙の上の文字ではなく、泥にまみれた手足の感覚なのです。物事の本質を、ケニアの同僚から改めて教えられた気がしました。
走り出しの作業は無事に終了。夕方には、モンバサから発送してもらっていた本命の「種菌」がオフィスに到着しました。予定通りに綺麗な状態で届いたことに素直に感動しました。(ケニアの物流を少し舐めていました)
明日は、この届いた菌を培地に植え付ける作業を進めていきます。

同僚の信頼と、深夜のアリの大群
作業の帰り道、同僚が早くも「3つ目のプロジェクトは何をしようか」と話しかけてきました。
私は、「いやいや、まずは今始めているイチゴとマッシュルームをちゃんと形にして、軌道に乗せることが最優先だよ」と返しました。しかし、彼女は首を振ってこう言いました。
「農家を信頼して任せなさい。作物の栽培は時間がかかるものだから、育つのを待っている間に、あなたが次に関われること、やれる新しいアプローチを今から仕込んでいくべきだよ」
さらに彼女は、現場の農家さんたちに対して、私のことをこんな風に紹介してくれていました。 「彼(私)のように、アグレッシブで行動力のあるボランティアが来てくれて、私たちは本当にラッキーだ。ボランティアは、あらかじめ決められたプロジェクトをやるわけじゃない。自分でゼロからプロジェクトを作り出さなければならない。彼はそれを、自分の力で必死に頑張ってくれている」
本当に、嬉しかった。言葉の壁に悩み、思い通りに進まない環境に焦り、体調を壊しながらも、泥臭く現場を歩き続けてきた私の5ヶ月の軌跡を、同僚はちゃんと見ていて、理解してくれていた。この配属先で、この相棒と出会えてよかった。
彼らの期待に応えるためにも、これからも全力で走り続けようと、心の底から誓いました。
さて、次は一体何を仕掛けようか。
未来の構想に胸を膨らませ、心地よい疲労感とともに帰宅しました。

・・・
しかし、ケニアの洗礼は、1日の最後に用意されていました。
夜、シャワーを浴びようとした、その時でした。
壁、天井、床に目を落とすと、見たこともないような「超巨大なアリの大群」が家の中を埋め尽くしていました。数万、いや、もしかしたら数百万匹はいたかもしれません。 床が蠢いているような、身の毛もよだつ光景に、流石に声が出てしまいました。
慌てて常備していた殺虫スプレーを手に取り、ボトルがほぼ空になるまで、部屋中に狂ったように撒き散らしました。 なんとか駆除を終えましたが、床の隙間にはすでに彼らが運んできた白い卵が敷き詰められていました。スプレーの匂いとアリの死骸に囲まれながら、呆然と立ち尽くすしかありませんでした。 どこからやってきて、次はいつ現れるのか。全く予測がつきません。
インフラやテクノロジーの未来を真剣に語り、同僚の言葉に涙し、最後は深夜に数万匹のアリと死闘を繰り広げる。
「いやー、本当に面白いな。生きるって」
箒でアリを掃き出しながら、思わず笑ってしまった夜でした。



コメント