陸続きの国境と、古着の山
今日は、私の任地マトゥングからバスで約1時間ほどの場所にある「ブシア」という街へ遠征しました。 本当はヴィヒガという別の場所へ行く予定だったのですが、そちらで警官が民間人を銃殺した事件に対するデモが行われるという情報が入り、安全を最優先して行き先を変更しました。

一方で、ペットボトルを歩道で売っている人も。色々なビジネスがあって面白い。
ブシアは、街の半分がケニア、もう半分がウガンダにあるという「国境の街」です。 現在パスポートを持ち歩いていなかったので、トラブルを避けるために国境オフィスのギリギリまでは近づきませんでしたが、歩行者は普通に国境を越えられそうな雰囲気でした。 少し裏道に入れば、Googleマップには載っていないけれど、人々の往来によって自然に踏み固められた「ウガンダへ続く道」が存在していました。陸続きの国境は、私たちが想像するよりもずっと曖昧で、行き来が容易なのだと思います(もちろん、私は正規の手続きなしに越えませんが)。
その行き来のしやすさもあってか、ブシアの街には想像以上に人とお店が溢れていました。ウガンダの貨幣が普通に使え、ウガンダ産のエナジードリンクや水も大量に流通しています。

特に驚いたのが、「ミトゥンバ(古着)」のマーケットの広大さです。 先進国から送られてきた大量の古着が、安いものでは20シリング(約20円)、高くても数百シリングというほぼ無料同然の価格で投げ売りされています。 これでは、ケニア国内の繊維産業が育つはずがありません。価格競争で勝てるわけがないのです。
それ以上に、世の中でいらなくなった洋服が「こんなにも大量にある」という事実に言葉を失いました。最近、ファミマがブックオフと提携し古着回収を始めたことが話題になっていましたが、日本人は年間で1人あたり約20着の服を買い、約14着を手放すと言われています。世界中で作られ、着捨てられた洋服の山が、この国境の街に行き着いている。洋服がありすぎる。世の中にモノが溢れすぎている。巨大なミトゥンバの山を前に、そんな虚無感にも似た感情を抱かずにはいられませんでした。

三笘の知名度と、多様な魚たち
市場を歩いていると、魚の豊富さにも目を奪われました。 干物、燻製、素揚げ、そして生の魚まで。種類だけでなく、売り方や加工の方法も多様で、国境の街ならではの活気を感じます。昨日のうちに地元の市場で魚を買ってしまっていたので今日は見送りましたが、次回はぜひ生魚を買ってみたいです。
歩いている途中、魚売りの兄ちゃんから「MITOMA(三笘)の兄弟か!」と声をかけられました。 ケニアの田舎でも、ブライトンのユニフォームは意外と多く流通しており、三笘の知名度もそれなりにあるようです。ただ、以前アフリカの別地域を訪れた時の「冨安」ほどの熱狂的な知名度にはまだ及ばない気もします。 今は香川の方が多いかなという印象もありますが、アーセナルとマンチェスター・ユナイテッドの人気が圧倒的であることは、アフリカのどの国に行っても共通しています。いよいよシーズン終盤、盛り上がりが楽しみです。

ブルーバンドの圧倒的PMF
野菜の小売価格や種類は、私の任地とそれほど変わりませんでしたが、スーパーマーケットに入るとその品揃えの多様さに圧倒されました。やはり大きな街は違います。
中でも最も衝撃を受けたのが、「ブルーバンド(Blue Band)」というマーガリンの陳列棚です。 どこのスーパーでも配架率は高いのですが、ブシアのスーパーのそれは異次元でした。棚の一面がすべてブルーバンドで埋め尽くされていたのです。
冷蔵庫がない家庭が多い。パンをよく食べる。油っこい味が好き。手軽にカロリーを摂取したい。 これらのケニア人の生活様式とニーズに対して、常温保存できるマーガリンは確かなPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を果たしています。
その強固な市場のニーズを背景に、街中の看板広告や試食イベントに莫大なマーケティング予算を投下し、「マーガリンといえばブルーバンド」という純粋想起を完全に獲得する。そこまでいけば、もはや営業の必要すらありません。「独占禁止法は大丈夫なのか?」と疑いたくなるほどの暴力的な配架率で、店舗の棚を制圧する。 「勝手に売れ続ける仕組みを作ることこそがマーケティングである」とよく言われますが、まさにそれを完璧な形で体現している事例を目の当たりにしました。

隠れ家カフェと、豊かな停電の夜
帰り際、街の外れにめちゃくちゃ雰囲気のいいカフェを発見しました。 立地は決して良くなく、車を持っているような層しか来られないような場所です。しかし、それが逆に街の喧騒から離れた落ち着いた空間を作り出していました。
店に入ると、少ししつこいくらいに親切な接客を受けました。「あなたの接客を担当します〇〇です」という挨拶から始まるスタイルは、ケニアではとても新鮮です。 経営陣と思われる人たちは、スーツを綺麗に着こなした洗練された男性たち。客層も、MacBookを広げて作業しているようなリッチな雰囲気の人たちばかりでした。 お腹はあまり空いていなかったので軽食とコーヒーだけをいただきましたが、味もクオリティも高く、とてもリラックスできました。地方都市にも、こうした質の高い空間が確実に存在しています。

夕方、任地に戻ってからはずっと激しい雷雨でした。 スマホの充電も切れてしまい、完全な暗闇の中で蝋燭を焚き、ただ雨の音に耳を澄ませる時間を過ごしました。
情報の波とモノに溢れた国境の街から一転。 火の揺らぎを見つめながら雨音を聞く、強制的にオフにされたこの静かな時間が、なんだかすごく豊かなものに感じられました。


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