農業の壁:「教育」と「情報不足」
朝から、マッシュルーム栽培用の追加のネジを届けるついでに、小屋作りの進捗を見に行きました。
現場に行くと、大工さんがしっかり仕事をしてくれており、問題なくフレームと屋根が完成していました。想像していたよりも少し小ぢんまりとした印象でしたが、まずはデモ圃場なので問題ありません。ここを起点に、他の農家へ拡大していってもらえれば大成功です。 話を聞くと、この大工さんはボダボダ(バイクタクシー)の仕事も兼業しているとのこと。やはり、農業関連の仕事一本で生計を立てるのは厳しいのが現実です。

その後、道端で知り合いと立ち話をしていると、ケニアの農業のリアルについてこぼしていました。 「農家の多くは、農業についての専門的な知識が全然ないんだよ」 特にこの田舎のエリアは、土地は有り余っているのに、それを活かしきれず大した収穫量になっていない農園が多いとのこと。大学や専門機関で農業をきちんと学んだことがある人は、ほんの一握りしかいません。
彼曰く、このエリアの農業における一番の課題は「教育」と「情報不足」なのだそうです。
農業事務所が、そういった人たちに正しい情報を届ける「ハブ」になればいいなと思います。事務所のオフィサーたちも、メイズ(トウモロコシ)や豆の植え方、コンポストの作り方などを教えています。しかし、農家全員が新しい学びに対してやる気があるわけではありません。これまで長年やってきた慣れ親しんだ方法を捨て、お金や労力をかけて新しいやり方に変えるというのは、想像以上にハードルが高いことなのです。
だからこそ、先行事例を作ることが重要なのだと思います。 まずは一人の農家を成功させ、明確な「便益(お金になる、生活が良くなる)」を隣人たちに目で見てもらう。そこから少しずつ地域へ波及させていく。 時間は途方もなくかかりますが、これこそが「農業×地方部」における、最も確実で王道なアプローチなのだと思います。

瀕死のイチゴの復活劇
マッシュルームの現場の後は、イチゴのパートナー農家の畑へ向かいました。
現場を見て、思わず顔がほころびました。 前回、イチゴの成長点である「クラウン」が土に埋まらないようにきれいに植え直す指導をしたのですが、それが功を奏したのか、ランナー(蔓)が力強くたくさん伸びてきていました。

農家の彼女も、1日2回の水やりや花摘み(実をつけさせず株を増やすための作業)を徹底してやってくれているようで、とてもいい感じに株が増え始めています。 当初の目標は「3ヶ月で100株から500株まで増やす」ことでした。今はまだ2ヶ月目で、そこまでの量に到達するかは微妙なラインですが、初期の「瀕死状態」からここまで盛り返せたことを考えれば、大健闘と言っていいでしょう。半年のタイミング(=6月)にJICAの方が来る予定なので、それまでにイチゴ畑を2面くらいに拡張したいと目論んでいます。
その足で、地域の病院にも足を運びました。 病院のスタッフもイチゴ用の畑の準備を進めてくれており、いよいよ来週からそこでも栽培がスタートします。 マッシュルーム、農家のイチゴ、病院のイチゴ。それぞれの現場が、着実に前に進んでいます。

新市場の着工式と、1.5億シリングのポテンシャル
昼前、事務所に戻りましたが、訪問者はいませんでした。
昼ごはんを食べるために自宅へ戻ろうとすると、全然人が来ない理由がわかりました。
奥の方から、ものすごい数の人が列をなして歩いてくる。
「何事だ!?」と思いながら周りの人に話を聞くと、どうやらマトゥングに新しくマーケットができるらしく、その「着工式」が行われていたとのこと。カカメガ郡の知事(フェルナンデス・バラサ氏)が直々にやってきていたそうです。さらには「来月にはルト大統領も来るらしい」と街は色めき立っていました。

気になって後で詳しく調べてみると、この熱狂の裏には地域を揺るがす巨大なプロジェクトが動いていました。
【調査】ウルトラ・モダン・マーケット(Ultra-Modern Market)構想
カカメガ郡政府(フェルナンデス・バラサ知事)と中央政府(ピーター・ナブリンド地元選出議員)の共同プロジェクトで、約1億5000万ケニアシリング(約1.5億円)の予算が組まれている重要案件。 すでに郡政府による用地確保が完了しており、4月上旬には貿易担当チーフオフィサーのフェイス・ギティラ氏らによる用地引き渡し式が行われ、まさに今月(2026年4月)、建設に向けた動きが本格化。 最大の目的は、近代的なインフラを提供して地元の中小零細企業(SME)やトレーダーをエンパワーし、地域経済を活性化すること。整備された販売ストール(ブース)、適切な衛生設備、セキュリティ、商品の保管スペースなどが設けられ、これまで以上に組織化された商業活動が可能になる。
(Geminiによる調査)
近代的なインフラの誕生は、私が今進めている農業ビジネスにおいても、大きな戦略的ポテンシャルを秘めています。モダン・マーケットが一体どのようなクオリティなのかは全くわかりませんが、完成に向けてマトゥングの商業がどう変化していくか、とても楽しみなプロジェクトです。
それにしても、彼らは一体どうやってこういう行政のVIP訪問の情報を得ているのでしょうか。SNSなのか、ご近所の口コミネットワークなのか。こういう偉い人が来ると、街全体がお祭り騒ぎのように盛り上がるのが、ケニアの面白いところです。
カオスな日常と、陽気なデモ行進
そして、街を歩いていると、着工式とは別の集団にも出くわしました。 燃料価格の高騰に対するデモ行進かな(?)。詳しい事情は分かりませんし、本当にデモなのかどうかも怪しいところですが、道の真ん中を横断幕を持って行進している彼らの姿は、なぜかみんな割と楽しそうでした。
政治への不満を爆発させるシリアスなデモがナイロビなどで起きる一方で、田舎のデモはどこか陽気で、ちょっとしたイベントのようです。 悲壮感のない彼らの姿を横目に、マトゥングの熱気とカオスを味わった1日でした。



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