空っぽの事務所といちごジャムの仕込み
朝、いつも通り配属先の農業事務所へ足を運んだものの、部屋には誰もおらず、人の気配すらありませんでした。
しばらく待ってみても誰も出勤してくる様子がなかったので、早々に見切りをつけて我が家へと引き返しました。
幸い、週末に控えているファーマーズマーケットに向けてやるべきタスクは手元にあります。
キッチンに立ち、収穫しておいたいちごを使ってジャム作りに取り掛かりました。
甘酸っぱい香りが室内に立ち込める中、じっくりと煮詰めて瓶に詰め、丁寧に梱包を済ませていきます。
マトゥングでこれ以上こなせる用事もなかったので、早めに家を出てカカメガのタウンへ向かうことにしました。
マーケットの出展に必要な資材や備品を買い揃えるためです。
大外れのマタツと、「久しぶりにケニアを浴びた」2時間
しかし、乗り込んだマタツ(バス)が大外れでした。
とにかく、進まない。
人が立っていそうな場所を見つけるたびに車を止め、車掌が身を乗り出して「乗らないか」と大声で勧誘を始める。 断られてはまたノロノロと動き出し、数十メートル先でまた止まって勧誘する。 その不毛なやり取りを延々と繰り返すため、普段なら早ければ1時間足らずで着く道のりに、2時間以上もかかってしまいました。
それだけでも十分に気が滅入るのですが、追い打ちをかけるように停車するたび、周囲にたむろしているバイクタクシーの運転手たちから無遠慮な声が飛んできます。
「ちんちょん!」 「金くれ!」
からかい混じりの蔑称と、条件反射のような金の要求。
車内の窓越しに聞こえてくるその雑音に対して、まるで耳が存在しないかのように無表情で無視を決め込みました。相手にするだけエネルギーの無駄です。
ただ、この苛立ちや理不尽を味わいながら、「なんか久しぶりに濃厚なケニアの洗礼を浴びているな」とどこか客観的に面白がっている自分もいました。普段の農村の穏やかな人間関係に慣れきっていたからこそ、こうした無骨で摩擦だらけのストレスも、感覚を鈍らせないためにはたまに必要な刺激なのかもしれません。
トゥクトゥクの衝突と、「心配より先に自己弁護」の現場
タウンに到着してからは運が味方してくれたのか、探していたマーケット用の資材はあっさりと見つけることができました。買い出しを素早く済ませ、そのまま荷物を抱えて同期隊員の家へと向かうことに。
移動のためにトゥクトゥクに乗り込み、街中を走っていた時でした。
ドン、と鈍い衝撃が車体に伝わりました。
トゥクトゥクに乗っているこちら側としては「少し何かに当たったかな」くらいの軽い揺れでした。
しかし、横に目をやると、ぶつかった相手のバイクが派手に道路の上へと横転し、派手に大ゴケしていました。
幸いなことにバイクの運転手に大きな怪我はなさそうでしたが、路上は一瞬にしてザワザワと不穏な空気に包まれます。
ケニアの路上でこういうことが
時、決まって始まるお決まりの光景があります。 互いに第一声から「俺は悪くない、お前が悪いんだ」と怒鳴り散らし合う、責任の擦り付け合いです。
今回も、まさにその通りの展開でした。
私の乗っていたトゥクトゥクの運転手は、倒れた相手を気遣う素振りなど1ミリも見せず、むしろ少しキレ気味の表情で「俺は悪くない」と周囲にアピールするように言い放ち、そのまま何事もなかったかのようにアクセルを踏み込んで走り去ってしまいました。
客観的に見れば、双方の過失は五分五分といったところでした。
自分の非を認めたら負けという過酷な自己防衛社会のルールは頭では理解できます。それでも、目の前で人が転がっているのを目撃した直後に、相手の怪我を心配する言葉の一つもなく、ただ自分の正当性だけを主張して立ち去る姿を見せつけられると、やはり胸の奥に冷たいものが走ります。
さらに怖かったのは、その事故の後でした。
怒りでアドレナリンが出て感情が高ぶってしまったのか、猛スピードで車体を揺らしながら爆走し始めました。
後部座席で手すりを必死に掴みながら、内心ヒヤヒヤさせられました。
自身に怪我はなく、巻き込まれることもありませんでしたが、生々しい人間の本能や社会の歪みを間近で見せつけられると、やはりどっと精神的な疲れが押し寄せてきます。
今日は、交通に悩まされた1日でしたが、田舎にいるだけでは感じられないストレスを感じられたのでよかったです。