マーケット直前のピボット――モリンガとハイビスカスの怪我の功名
今日は一日、畑に出て土と向き合う時間となりました。
午前中は、今週末に迫ってきたファーマーズマーケットの出展内容について、農家さんと話し合いました。
頭を悩ませていたのは、メインとして考えていたいちごの収量です。
畑の様子を見渡しても、今週末までにブースを彩るほどのまとまった量を収穫するのは、かなり厳しい。
ないものは、ない。
そこで、いちご一本足打法を諦め、他のローカルプロダクトをラインナップに加えるピボットすることにしました。候補として挙がってきたのが、「モリンガ」や「ハイビスカス」などです。
どちらもケニアの気候に適した植物であり、何よりビタミンやミネラルが豊富で、栄養価の高さは折り紙付きです。 現地の文脈にも合致しているし、健康意識の高い来場者へのアプローチとしても申し分ありません。
いちごが揃わないというピンチから始まった軌道修正でしたが、いちごの単発販売よりもケニアらしくて面白いんじゃないか?と、ディスカッションを重ねるうちに場の空気が前向きな熱を帯びていきました。
ハプニングをきっかけに、予期せぬ新しい可能性が手元に転がり込んでくる。怪我の功名のような展開でした。
白いネギを好むケニア人はいるか?日本の技術と鍬の手触り
作戦会議を終えた後は、そのまま畑に移動して農作業に取り組みました。
今日挑戦したのは、「長ネギ」の定植です。
せっかくの機会なので、日本にいた頃にやっていた栽培手法を試してみようと思い立ちました。
ケニアでネギといえば、葉ネギのように株立ちした青い部分を適当に刻んでスープに放り込むのが一般的です。対して、日本の長ネギは、成長に合わせて何度も土を寄せていき、日光を遮ることで茎の白い部分(軟白部)を太く長く育てていきます。
そのため、後からしっかりと土を盛り上げられるよう、畝と畝の幅をかなり広めに確保して溝を掘り、丁寧に苗を植え付けていきました。
正直なところ、ケニア人の食習慣を考えると、白い軟白部をありがたがるのか、それとも見慣れた青い葉っぱの方が好まれるのかは全く読めません。どんなリアクションが返ってくるかは未知数です。
ただ、もしウケなかったら、私が全部買い取って消費すればいいやという気楽な保険もあります。
ネギならいくらあっても困らないので。
まずは自分の手で好きに実験させてもらうことにしました。
久しぶりに鍬を力強く振り下ろし、雨で湿った土をすくい上げる重労働が続いたため、作業が終わる頃には全身がずっしりと疲労感に包まれていました。 日本で農業の現場にいた頃は、エンジン付きの重機ではなくても、手押し式の簡易的な機械があり、道具の力で大幅に身体の負担を軽減できていました。
機械のありがたみを、痛む腕と腰の張りを通して改めて痛感させられます。
オーガニックの壁と化学肥料の誘惑――いちごの「再現性」に抱く弱気
ネギの作業を終え、続いていちごのプロットへ。
株の手入れをしながら、胸の奥には重たい葛藤が居座り続けていました。
これまでの生育状況を見る限り、花や実を充実させるために不可欠なリン酸が決定的に不足しています。
これまで堆肥や有機資材の工夫でどうにか補おうと粘ってきましたが、目に見える成果はなかなか現れてくれません。
そろそろ、化学肥料をスパッと投入すべきではないか
そんな割り切りの考えが、頭をよぎります。
農薬や化学肥料に頼り切らないオーガニック志向は尊い理念です。しかし、現実の植物の生理要求に対して、手に入る有機資材だけでスピーディーに対応するには、限界があるのも紛れもない事実です。
フルーツは難しい…
正直、少し諦めに近い弱気な感情が漂っています。
これほどまでに管理が繊細で、気候や土壌の微細なブレに左右される作物は、外から来た私が張り付いて手入れしているからこそ辛うじて生き長らえているだけで、現地の一般的な小規模農家へ広く広げていく「再現性」がほとんど見出せません。
ただ、どれだけ弱気になろうと、途中で投げ出す選択肢はありません。目の前に育っている苗たち、そして一緒に汗を流してくれた農家さんに対して、一人のパートナーとして責任を持って最後まで向き合い、やり切る義務があります。 モヤモヤした感情を抱え込みつつ、必要な剪定を淡々とやり切りました。

農大ゼミの深い知見と、相対化されたマトゥングの土壌ポテンシャル
夜は、ケニア各地で活動する農業関係隊員のオンライン自主ゼミに参加しました。
今回は、現役の東京農大生(大学院生)の隊員が発表を担当する回。
土壌環境や病害虫に対する防除体系など、マニアックな議論が繰り広げられました。
他の隊員の話を聞いていて最も興味深かったのは、同じケニアの西部エリアであっても、地域ごとに土壌のコンディションが驚くほど激しく異なっているということです。
特にビクトリア湖の周辺地域などは、農業を営む上でかなり過酷な環境に晒されているのだそう。
それぞれの隊員が、自分の配属先の厳しい自然条件に頭を悩ませていました。
そういう話を聞くと、私が活動しているこのカカメガという地域は、土壌環境に恵まれた土地なようです。
確かに乾燥にやきもきさせられていますが、水不足という天候のリスクを除けば、土そのものの力で深刻に頭を抱える場面はほとんどありませんでした。
自分の立っている足元の恵まれ具合は、外の過酷な現実と比較して初めて浮かび上がってきます。
さらに、虫害や獣害に対する各任地でのオーガニックなアプローチも興味深かったです。
紐と枝を使った簡易的な柵、トゲのある植物を障壁にする工夫など、それぞれの隊員が現地の知恵を拾い上げながら試行錯誤を重ねていました。
教科書通りの近代農法をそのまま持ち込むのではなく、地域の中に眠っている土着の知恵を掘り起こし、現代の知見と掛け合わせていくこと。いちごの壁に対しても、まだまだ試せる現地の工夫やアプローチの引き出しが残されているのかもしれません。

バジル、ミント、ローズマリー。全部匂いが強い!