タスクのない月曜日と、体育会系の朝掃除
月曜日、新しい1週間の始まりです。
手元のスケジュール帳を開いてみると、今日と明日は目立った現場の予定がほとんど入っていませんでした。
忙殺されているときは、少しゆっくりしたいと願うものですが、何もない空白の時間が目の前に広がると、逆に居心地の悪さと苦しさを感じてしまいます。身体を動かし、誰かと対話し、課題に向き合っている方が、精神的にはずっと健やかでいられる。
手持ち無沙汰な朝、配属先である農業事務所の掃除から一日をスタートさせました。
事務所の掃除は、私の朝のルーティンです。
以前、地元の学生インターンたちが事務所にいた頃は彼らが毎朝こなしていた仕事でした。
しかし、彼らの実習期間が終わってからは、私が引き受けるようにしています。
事務所の中で一番年齢が若い者が、場の環境を整える。体育会系組織を思わせるような上下関係の美学ですが、異国のケニアの役所でそれを自分が淡々とこなしている状況。なんだか面白いです。
性悪説がもたらす違和感
朝の掃除を終えた後、事務所長と膝を突き合わせ、農家向けトレーニングの開催について話し合いを行いました。
お互いにプロジェクトへの思い入れや大切にしたい優先順位があるからこそ、ディスカッションは時に熱を帯び、率直な意見のぶつかり合いになりました。他のオフィサーたちの視点も交えながら、どうにか双方の落としどころを見つけ出し、方針を着地させることができました。
当初思い描いていたタイムラインからは少し遅れが生じることになりますが、それでもトレーニングを確実に形にする道筋を残せたことは、今日の一歩として前向きに受け止めています。
ただ、その話し合いの最中、事務所長から強く念を押された言葉が、胸の奥に引っかかり続けていました。
「これまで一緒に仕事をしたことのない人間は、安易に信用してはいけない」
「相手はケニア人なんだから」
私を気遣い、余計なトラブルに巻き込まれたり、騙されたりしないようにと案じてくれた上での言葉であることは痛いほど分かります。その親切心には感謝しかありません。
しかし、同じケニア人である彼女の口から、「ケニア人だから信用するな」とい性悪説が当たり前のように紡ぎ出される現実に直面すると、どうしても心の中に鉛のような重たい違和感が残ってしまいます。
慎重になること、リスク管理を徹底することはビジネスや開発の現場において不可欠な鉄則です。
しかし最初から人は裏切るものだという色眼鏡をかけて相手を値踏みする関係性から、連帯や持続可能な仕組みが生むことはできるのか。
疑って身を守る賢さよりも、リスクを引き受けてでも目の前の人を一度信じてみる愚直さを、私は手放したくありません。その性悪説の空気感に少しだけ寂しさを覚えつつ、決まった段取りを一つずつ進めていこうと自分に言い聞かせました。
住民の苦言
午後、一人の男性が少し不満そうな様子で事務所にやってきました。
話を聞くと、彼は隣町ムミアスの農業事務所を訪ねたものの、オフィスにオフィサーが一人もおらず、誰も仕事をしていなかったのだそう。 「ちゃんと仕事をしてほしい。カカメガの本部にも連絡を入れるつもりだ」と、呆れと不満が混ざった口調で話していました。
行政機関へのクレームを間近で受けた事務所長は、私に向けてこう言いました。
「毎日ちゃんと出勤して、少なくとも朝には事務所の鍵を開けておいて」
要するに、「ここに職員がいるぞ」というアピールを地域住民に見せておこう、という話です。
ケニアの地方行政では、職員がフィールドに出払っているのか、単にサボって不在なのか分からないまま鍵が閉まっているオフィスが珍しくありません。住民からすれば、窓口が開いていないこと自体が不信感の種になります。
特別な成果を出す前に、まず毎朝決まった時間に鍵を開け、ちゃんと人がいるというサインを出し続けること。
その存在証明の積み重ねこそが、公の信頼の第一歩なのだと考えさせられました。
Podcast収録と、自分の言葉で現在地を測る夜
夜は、定期的に行っている同期隊員とのPodcast収録に参加しました。
今回は私がメインスピーカーとして話す回だったため、ここ最近のいちごやキノコのプロジェクトの進捗、そしてこれからの展開について、頭の中の引き出しをひっくり返しながら言葉を紡いでいきました。
現場で手を動かしている最中は、目の前のトラブルをさばくことに必死になり、自分の現在地を俯瞰して見る余裕を失ってしまいがちです。 しかし、マイクに向かって誰かに届けるために思考を整理し、論理立てて話すプロセスを経ることで、自分がどこで躓き、どこで前進しているのかが鮮明に浮かび上がってきます。
定期的に自分の活動を客観的な言葉にして言語化することの重要性を、改めて実感しました。
予定の少なさにやきもきし、性悪説の警告にモヤモヤし、住民の怒りから公共の責任を考えた月曜日。
明日もまた、事務所のドアを開けて一日を始めていきます。