車3台の大所帯と、汚れた手と裸足のお出迎え
今日は、任地マトゥングにODA視察団の方々がやってきました。
協力隊のプロジェクトや現地の取り組みを評価するための調査視察です。
話には聞いていましたが、いざ現場に現れた一行を見て息を呑みました。
想像していた規模を遥かに超える大所帯。
大きな車が3台連なって砂煙を上げて乗り込んできて、中から降りてきたのは総勢8名。
大使館関係者、開発コンサルタント、大学教授といった錚々たる肩書きの方々がズラリと並んでいます。
(……え、私なんかの現場で大丈夫ですか?)
内心でたじろいでしまいました。
しかも、視察団が到着したとき、私はきのこの作業の真っ最中でした。
両手は土と資材で真っ黒に汚れ、足元に至っては靴すら履いていない裸足。
スーツや小綺麗なフィールドウェアに身を包んだ視察団の前に、裸足と泥手で立つ自分。
「本当にすみません」と頭の中で何度も平謝りしながら、なんとも締まらない姿でお出迎えすることになってしまいました。
調査の質疑応答が始まると、質問の大部分は私ではなく、現場の農家さんや農業事務所の同僚オフィサーへと向けられました。私としては、背後に控えて彼らのやり取りをそっと見守る時間が長かったのですが、その中で少し居心地の悪い瞬間がありました。
質問に答える流れの中で、私の働きぶりやプロジェクトへの貢献を恥ずかしげもなく称賛してくれる。
本人のすぐ真隣で、褒められる時間。ありがたくて素直に嬉しい反面、照れる。
私自身にもいくつか英語で質問が飛んできましたが、頭を整理しながら言いたいことの要点はしっかりと伝えることができました。ただ、同じ日本人を相手にして、お互いに英語でかしこまって質疑応答を交わすシチュエーションは、不思議なむず痒さが。
何はともあれ、大勢の来訪者を迎えたケニアの農家さんや同僚たちは、終始とても嬉しそうに目を輝かせていました。
見知らぬ外部の要人がわざわざ自分たちの村を訪れ、自分たちのやっている仕事に強い関心を寄せてくれる。
ケニアの日常において、自分たちの存在や努力が公に承認される機会は決して多くありません。
だからこそ、こうしてスポットライトを浴びて認められる瞬間は、彼らにとって誇らしく、大きな活力になるのだと思います。

喋り続ける農家への苛立ちと、当たりそうになった自分への猛省
午前中で視察団の対応は無事に終了。
午後からは、現実の作業の続きへと戻りました。
昨日仕込んだ培地への植菌作業や、重たい袋の移動など、息つく暇もなく手を動かします。
しかし、作業を進めている最中、私の中にドロリとした嫌な感情が湧き上がってきました。
一緒に作業しているはずの農家さんが、全然手を動かさず、口ばかりを動かしてずっとお喋りに興じていたからです。
早く終わらせたい作業が全く前に進まない。
そのもどかしさに加えて、連日の過密スケジュールや午前中の疲労が溜まっていました。
苛立ちがピークに達しかけたその時、農家さんから能天気に声をかけられました。
「なんでそんなに忙しそうにしているの?」
その呑気な一言にイラッときてしまい、だいぶ冷たいトーンで言い返してしまいました。
おそらく、私のイライラは伝わってしまっていたと思います。
不甲斐ない。自分の感情もコントロールできないなんて。
滅菌作業のために炊いている火を眺めながら、自己嫌悪と反省が押し寄せてきました。
農家さんがマイペースなのはいつものことであり、最初から分かっていたはずです。彼らが悪いわけではありません。問題は、私自身が、心に余白が残っていなかったことにあります。
自分の疲れを理由にして、周囲の人に不機嫌を撒き散らしたり、感情をぶつけたりするのは、人間として一番格好悪いと思っています。
疲れて人に当たりそうになったら、無理に作業を続けようとせず、何が何でもその場で立ち止まって休むこと。
自分のキャパシティの限界を見誤っていたことを、深く反省させられました。

雨の中の全力疾走と、笑い声のストレス
畑を出て我が家へ向かう帰り道、追い打ちをかけるように空から激しい雨が降り注いできました。
早く部屋に引きこもりたい一心で、道路を全力疾走で駆け抜けました。
すると、道端の軒先で雨宿りをしながら座り込んでいた現地の人たちが、全力で走る私の姿を見るなり、指を差して大笑い。
ケニアの人々は、雨が降っても走ることを滅多にしません。その場で雨宿りをして何時間でもやり過ごすのが彼らのスタイルです。 だから、雨の中をダッシュしている外国人の姿は、彼らにとって格好の喜劇に見えたのでしょう。
(構うな、ぼけえ!)
心の中でそう叫びながら、びしょ濡れになって我が家のドアへと滑り込みました。
他人の視線や声にここまで過敏に苛立ってしまうこと自体、精神が黄色信号、いや完全に赤信号を点滅させている証拠です。
近いうちに息継ぎを挟もうと思います
点滅する電球と、裏側の世界の気配
泥と雨を洗い流し、暗くなった部屋を見渡すと、今夜は久しぶりに電気が通っていました。(3時間くらいだけでした…)
ただ、送電が不安定なようで、天井の電球が不規則に、チカチカと不気味に点滅を繰り返しています。
ウィルが現実世界にメッセージを送ろうとしているのか。
あるいは、Upside Downに、デモゴルゴンでも潜んでいるのか。(参考:ストレンジャーシングス)
疲労困憊で、人に当たって反省し、雨に打たれて笑われた一日。
今夜は点滅する電球の光を眺めながら、これ以上何も考えずに、早々にベッドに潜り込んで脳のスイッチを完全にオフにします。
