10時間半の長旅と、首都ナイロビの洗練
朝から荷物をまとめ、首都ナイロビを目指して移動を開始しました。
丸一日がかりのバス移動は、何度経験しても身体に堪えます。
本を読み、映画を眺め、寝て、目が覚めても景色はまだ途中のまま。果てしない道のりです。
平日の移動だったからか、普段よりは1時間ほど早く目的地へ滑り込みました。早く着いたとはいえ、かかった時間は10時間半。腰を伸ばした瞬間に、どっと疲れが押し寄せてきます。
バスを降りて街へ出ると、ナイロビの都会的な迫力に圧倒されます。
押し寄せる車の波、行き交う膨大な人の数、空へ伸びる高層ビル群。
そしてショッピングモールへ足を踏み入れると、地方とは明らかに異なる空気感に息を呑みます。
肌の色が黒くない自分が、ここでは全く目立ちません。白人の姿もごく自然に溶け込んでいます。
何より目を奪われたのは、モールを行き交うケニア人たちの洗練された佇まいでした。顔が驚くほど小さく、引き締まった手足が長く伸びていて、まるで雑誌の表紙から抜け出してきたスーパーモデルのようなオーラを放っています。
本気の黒人のスタイルの美しさは圧倒的です。
普段マトゥングで土埃にまみれて暮らしている世界と同じ国とは思えないほどの別世界が広がっていました。

スーパーマーケットに並ぶ「付加価値」の世界
モール内のスーパーを歩きながら、棚の品揃えの違いにしみじみと見入ってしまいました。
野菜売り場には、トマトだけでも用途や産地ごとに5〜6品種がずらりと並んでいます。ハチミツのコーナーへ行けば、蜜源となる花の種類ごとに価格差がつけられ、いちごも丁寧なパッケージングによって値段が分かれていました。
ブランディングという手法を通じて、農産物にしっかりと付加価値が上乗せされている光景に深く感動しました。
地方の現場にいると、消費者の商品選択基準は非常に少なく、シンプルです。
品質の微細な差よりも、「安いかどうか」が最優先されます。
しかし、ここナイロビには、品質や物語、見せ方に対して対価を支払う市場が確かに存在しています。
生産とマーケットの距離、そして付加価値をどう届けるかというアグリビジネスの可能性を、陳列棚を眺めながら強く実感しました。

人懐っこいケニア人の店員
夜は同期隊員と合流し、3人でテーブルを囲んで夕食をとりました。
入ったお店の店員のおじちゃんがとても愛らしい人でした。人懐っこく、腰が低く、こちらの冗談にも屈託のない笑顔で応えてくれます。
異国で生活していれば、時に理不尽で嫌なケニア人に出会うこともあります。
それでも、今夜出会った彼のように温かく誠実な人がいるから、この国の人間を嫌いになることはできません。
それにしても、夜のナイロビは芯から冷え込みます。
年中蒸し暑いマトゥングでは長袖を着る機会などほとんどなく、夜も服を脱ぎ捨てて寝るほどですが、ここでは布団にしっかり毛布を重ねてちょうどいいくらいです。日中は心地よい涼しさですが、夜の冷気には身が縮みます。
ただ、このくらいの冷涼な気候と気温があれば、いま自分が任地で試行錯誤しているキノコや果樹たちも、ぐっと身を締めて立派に実をつけてくれるはずです。農業の適地としての気候が少し羨ましくもなりました。