徒歩15分の奇跡:ロンドン帰りの教育者との遭遇
午前中、以前農家さんから紹介してもらっていた連絡先にアポイントを取り、訪ねました。
正確な所在地が分からなかったため、道行くローカルの人々に尋ね歩きながら、手探りで目的地へと向かいました。
たどり着いた先に待っていたのは、想像を遥かに超える素晴らしいバックグラウンドを持つ人物でした。
彼はイギリスのロンドン大学で農業の学位を取得し、その後はエルドレット大学で長年にわたり教鞭を執り続けた元大学教授。退官後の3年前に自らの手で土地を購入し、私立の学校を立ち上げたのだそうです。ロンドンでの長い滞在経験があるため英語は流暢で、過去に日本人の友人も多くいたと笑顔で語ってくれました。
我が家から歩いてわずか15分ほどの目と鼻の先の距離に、これほど国際的で知的なバックボーンを持つ人物が潜んでいたとは思いもよりませんでした。
被りすぎた「3+1」の構想と、支援の共通哲学
彼と机を挟んで話を進めるうちに、その教育方針と目指すビジョンに鳥肌が立つほどの衝撃を覚えました。
彼はこの学校を、子どもたちへの普通教育の場にとどまらず、「地域の人々が農業を実践的に学ぶハブ」に育て上げたいという明確な野望を抱いていました。
そして、彼がこれから具体的に展開したいと挙げたテーマが、以下の「3+1」でした。
- 養蜂(ハチミツ)
- きのこ栽培
- 有機農業(オーガニック)+ファーマーズマーケット(直売・展示会)
あまりにも、現在私がマトゥングで進めている活動のアジェンダと完全に被りすぎています。
さらに共感を覚えたのは、彼自身の活動アプローチでした。 彼自身がすべてを手取り足取り教え込むのではなく、自らのネットワークを駆使して「外部の専門トレーナー」と「現地の意欲ある農家」を引き合わせる触媒役に徹している点。
何より深く胸を打たれたのは、彼の掲げる支援のモットーでした。
「農家に、安易なお金の支援は絶対にしない」
農家自身に身銭を切らせ、自らの資金でリスクを背負わせる。そうやって当事者としての強い責任感とオーナーシップを持たせない限り、どんなプロジェクトも自立して持続することはない。
彼が口にしたその哲学は、日々考えている支援依存を断ち切るための境界線と、同じものでした。
ケニアで活動していると、「神が導いてくれた」というフレーズを現地の人々から耳にタコができるほど聞かされます。いつもは適当に受け流していましたが、今日ばかりは「本当に神の導きがあったのかもしれない」と素直に納得してしまうほどの奇跡的な出会いでした。
具体的なネクストアクションまでその場ですり合わせを完了させました。
相手の動くスピード感はこれから見極めていく必要がありますが、強力なパートナーシップを築いていけそうな確かな希望を感じる時間となりました。

小さな果実の前進と、葉を食われたりんご
午後は、パートナー農家さんのもとへ向かい、いちご畑のメンテナンス作業を行いました。
畝を見渡すと、可愛らしい赤いいちごの果実があちこちに実っていました。大きさはまだ全体的にまばらで、ほとんどが小ぶりなサイズです。市場へ本格的に出荷できるほどの満足な収量には達していませんが、それでもゼロから手作業で畝を立て、管理を重ねてきた作物がこうして形になっている事実には、着実な前進の手触りがあります。
一方で、先日定植したばかりのりんごの苗を確認すると、こちらは手放しで喜べる状態ではありませんでした。
柔らかい新芽や葉が虫に食い荒らされており、コンディションとしては決して良好とは言えません。
思い通りにいかないのが、生き物を相手にする農業の常です。 一喜一憂することなく、目の前の不調に対して適切な手入れを施しながら、一歩ずつ進んでいくしかありません。来月中旬に控えているマーケットデイまでに、少しでもまとまった量のいちごが収穫できることを信じて、丁寧な管理を続けていきます。
飛んだ意識と、長引く夜の分科会
夕方、任地の我が家へ帰宅。
やるべきデスクワークや家事のタスクが頭の中に並んでいましたが、椅子に腰掛けた瞬間、ふらっと意識が飛んで眠りに落ちていました。
遠征の疲れや日中の移動、そして知的な対話の興奮が重なり、自覚している以上に身体の奥底に疲労が蓄積していたようです。 平日に100%のパフォーマンスを発揮するためには、土日の休日にしっかり身体をオフにする時間が不可欠なのだと身をもって痛感しました。ここからの約3週間は様々な予定が立て続けに入りそうな気配がありますが、無理にアクセルを踏み込みすぎず、休める隙間を見つけて上手に自分を回復させていこうと思います。
夜は、ケニアで活動する農業関連隊員が集う「農業分科会」にオンラインで参加しました。
この会は、毎回のように予定時間を大幅にオーバーして長引きます。 それだけ全員がそれぞれの現場で深い悩みを抱え、試行錯誤を繰り返しており、同時に日本語で本音を語り合える時間に飢えているのだと思います。
同じ農業系の隊員であっても、目指しているゴールも、取り組んでいる活動も、任地の土壌やインフラ環境も全く異なります。 他人のやり方をそのまま自分の現場にコピーすることはできません。しかし、それぞれの葛藤や実践知のなかに、自分の課題を突破するための重要なヒントが転がっている瞬間が確かにあります。
徒歩15分の場所で見つけた心強い教育者。
畑で少しずつ色づく果実たち。そして、夜の画面越しに言葉を交わす仲間たちの熱量。
たくさんの刺激と学びを受け取った一日でした。
