数時間で消えた水と、YouTubeの被写体になった朝
昨日の朝から夕方にかけて流れていた水道は、やはり数時間限りの奇跡だったようで、本日も水が止まっていました。
週末も変わらず断水です。
昨日、水が出ているうちにタンクを満タンにしておいて本当によかったと、胸を撫で下ろしました。油断していれば、今頃は一滴の水もないまま途方に暮れていたはずです。
午前中は、昨日から約束していたきのこ農家さんのもとへ足を運びました。
今日の目的は、YouTube動画の撮影です。 普段はナイロビに暮らしている農家さんのお姉さんが実家へと戻ってきており、彼女自身がYouTubeチャンネルを運営しているため、その動画の被写体としてプロジェクトの解説役を頼まれたのです。
私たちが取り組んでいるきのこ栽培のプロセスや、地域での意義、日々の工夫について、カメラの前で色々と説明をさせていただきました。

同じ家から生まれた格差と、エリートの系譜
撮影の合間、そのお姉さんとゆっくりと言葉を交わす機会がありました。
彼女はかつて、ケニアの教育省に勤務していた元官僚で、現在は定年退職して安定した年金生活を送っているのだそうです。
どうりで、話す英語の発音も語彙も極めて流暢で洗練されていました。
さらに驚かされたのは、彼女の息子の経歴でした。
彼女の息子は、ロシアの大学へと留学して学位を取得し、現在はヨーロッパ・ドイツで看護師として働いているのだと言います。
彼女は、農家さん(弟)の暮らすこの古い泥壁の実家を見渡しながら、「この家もちゃんと直さなきゃダメね。汚いわ」と率直に口にしていました。その何気ない一言からも、彼女が普段ナイロビでどれほど快適で近代的な生活を送っているかが透けて見えます。
同じ両親のもと、同じこのマトゥングの田舎家で生まれ育ったはずの姉弟。
それなのに、一方は首都でキャリアを築き、子どもをヨーロッパへ送り出し、もう一方はこの地で日々の生計に悩みながら畑を耕し、子どもは少ない学費も払えず、滞納している。
このあまりにも鮮明なコントラストを前にして、同じ家からスタートしても、これほどまでに大きな差が生まれるのかと、深い衝撃を覚えずにはいられませんでした。
勉強は大前提。「情報の非対称性」という決定的な壁
彼女にその成功の秘訣を尋ねると、奨学金の制度を徹底的に調べ上げ、駆使したことを教えてくれました。
ケニアという国において、貧困から抜け出し、社会的・経済的な階層を駆け上がるためには、一体何が必要なのか。
もちろん、本人が血のにじむような努力をして猛勉強することは、大前提の最低条件です。
ただ、それだけでは絶対に足りません。
その努力をどこへ向けるべきかという「情報」を掴み取れるかどうかが、決定的な分岐点になります。
どの機関が返済不要の奨学金を出しているのか。海外留学へのパスはどうすれば開けるのか。そうした有益な機会の存在を知っているかどうかが、人生の選択肢を大きく左右します。
しかし、ここマトゥングのような地方の農村に目を向けると、スマートフォンすら持っていない家庭が大半を占めています。両親を早くに亡くし、教育の情報にアクセスする手段を持たない子どもたちも無数に存在します。
ここにあるのは、残酷なまでの「情報の非対称性」です。
そもそも情報の存在すら知らない人は、情報を取りに行こうと手を伸ばすことすらできません。
どれだけ本人に潜在的な才能があり、真面目に努力する熱量があったとしても、情報へのアクセスが断たれているだけで、スタートラインにすら立てない。だからこそ、この国での成功には「どんな環境に生まれたか」「誰に出会えたか」という、個人の力ではどうにもならない「運」の要素があまりにも大きく作用してしまいます。
生まれた環境の違いによって、本人の努力以前に選択肢が奪われてしまう構造は、どう考えても健全ではありません。
外から来た私たちが、個人の「やる気」や「努力」そのものを強制的に生み出すことは不可能です。ただ、彼らの目の前に横たわっている「情報の非対称性」を少しでも埋め、新しい選択肢や可能性を届けるためのサポートなら、できるはずです。
YouTubeのレンズを見つめながら、外からの風として自分が果たすべき役割の輪郭を、改めて考えさせられた時間でした。
マトゥングの熱気と、身体を整える土曜の午後
撮影を終えて帰宅した午後は、家でじっくりと自分の時間を過ごしました。
で肉をジュウジュウと焼いて焼肉を楽しみ、溜まっていたアニメを観進め、自重トレーニングで身体に負荷をかける。
汗を流し、美味しいものを口に運ぶことで、思考でパンパンになっていた頭が綺麗にほぐれていきました。
先週、ナイロビやニャフルルへ足を伸ばして痛感したことですが、ケニア国内であっても地域による気候の差は凄まじいものがあります。標高が高く朝晩は肌寒いナイロビに比べると、ここマトゥング一帯は本当に暑い。陽が完全に沈んだ夜になっても、部屋の中にはジリジリとした熱気が居座り続けています。
暑さと断水という過酷な環境ではありますが、だからこそ体調管理には細心の注意を払いながら。
明日もまた、私自身のペースを保ちながら、週末の時間を穏やかに過ごしていきます。
