30年前のケニアを知る二人と、JICA所長の視察
早朝、JICAケニア事務所の所長が、活動現場を視察するために遥々マトゥングまで足を運んでくださりました。
約束の時間通りに、配属先である農業事務所のボスも顔を見せてくれました。
実は、JICAの所長は30年前に隣のブンゴマで隊員として活動されていた方で、私たちのボスもまた、長年ブンゴマで生まれ育ち、現在もそこから通勤している生粋のローカルです。私が生まれる前からこの地域の空気と景色を知っている二人が膝を突き合わせ、「あの頃とは比べものにならないくらい開発されて、全く別の街になった」と懐かしそうに語り合っていました。
途上国における「30年」という月日がもたらすダイナミズムと変化の大きさに、ただただ圧倒される思いでした。
少し言葉を交わした後、実際のフィールドへご案内しました。
特に、地域で出る農業廃棄物を上手に活用して培地を作り、効率的にキノコを栽培している循環スキームに対して、JICA所長は大変感銘を受けてくださりました。
普段、たった一人で現場と向き合っていると、自分のやっているアプローチが良いのか悪いのか、客観的な評価を得られる機会はほとんどありません。だからこそ、こうして外部から直接認めてもらえたことは、素直に誇らしく、大きな励みになりました。
詳細はまだ未定ですが、今年10月には日本からの視察団が訪れる予定も持ち上がりました。 配属先のスタッフや農家さんたちを動かしていく上で、こうした明確でインパクトのあるマイルストーンが存在することは、普及員として非常にありがたく、強力な追い風になります。
養蜂の奥深さと、農業が深めてくれた「食の豊かさ」
午後は、隣町ムミアスへ移動し、別のサブカウンティで養蜂のプロジェクトに取り組んでいる同期隊員と合流しました。
これまで養蜂に関する知識は全く持ち合わせていなかったのですが、隊員と農家さんのディスカッション内容は発見の連続で、非常に知的好奇心を刺激されました。
専用の抽出機械を導入するだけで収穫量が劇的に跳ね上がること、そして雑味が抜けて味のクオリティまで格段に向上すること。さらに、ハチミツは単なる食用にとどまらず、化粧品やリップクリーム、プロポリス、蜜蝋といった形で、余すところなく多角的に商品化できるポテンシャルを秘めていること。
また、ハチミツの風味は蜂が蜜を吸う花の種類や気候によって全く異なり、ミカンなどの柑橘系、アカシア、マヌカなど、それぞれに独自の個性があるのだそうです。
この地に赴任し、自ら土を耕して農業に関わるようになってから、以前にも増して「食べ物」に対する興味が深まっていくのを感じます。
素材の背景や生産のプロセスを知ることで、毎日の料理や食事の時間が何倍も楽しくなり、人生そのものの味わいが一気に豊かになった気がします。食べることへの解像度が上がることは、生きていく上で最高の贅沢です。

街の雑音を越えて、鳴り止まない注文の電話
学校が長期のホリデーシーズンに入った影響なのか、今日のムミアスの街は普段以上の人波で溢れかえっていました。
街のあちこちに物乞いをする子どもたちの姿が見られ、不躾に話しかけてくるダル絡みも多く、どこか殺伐とした治安の悪さが漂っていました。人が過密になると、どうしても地域の粗が目立ちやすくなります。
しかし、今日の私は、そうした街のノイズや不快感を不思議なほどフラットに受け流すことができました。余計なトゲが立たず、心の余白が保たれていたからかもしれません。
街を歩いている間にも、私のスマートフォンには電話がかかってきました。 さらに、通りですれ違う顔馴染みの知人からも「次のキノコはいつ届くんだ?」と直接声をかけられました。
自分が歩いて種を撒いてきたマーケットが、確実に、そして力強く拡大している。
その生々しい手触り感と手応えが、胸の奥をじわじわと温かく満たしてくれました。自分の起こした波紋が、マトゥングやムミアスの市場にしっかりとした流れを作りはじめています。
明日からは、週末。
この2日間で心と身体をしっかりと休め、美味しいものを食べてエネルギーをフル充填し、来週からの挑戦に向けて万全の準備を整えます。
