【ケニア派遣218日目】無駄が削ぎ落とされる定植作業の興奮。農家の「弱い自信」をコントロールする普及員のリアル

ケニア派遣218日目。2日ぶりの水に感謝しつつ、追加注文に対応するキノコの受注生産型サイクルを回す朝。午後はパートナー農家さんといちごの新規プロット定植作業へ。自らの鍬の技術向上と作業プロセスの効率化に知的な興奮を覚える一方、テレビに影響されて「いちご拡大」を口にする農家の「根拠の弱い自信」を冷静にコントロールするマネジメント論を綴ります。

断水への適応と、キノコの「受注生産」という健康的なサイクル

2日ぶりに、無事に水が出ました。

最近は本当に断水が多くてインフラの不安定さに振り回されがちですが、その不便な生活スタイルにも、身体と心がずいぶんと適応してきたように思います。「水がないなら、ないなりの手の動かし方と生活の回し方がある」と、動じずに対応できるようになっている自分に、確かなたくましさを感じます。

午前中は、キノコの収穫に向かいました。 ありがたいことに、追加の注文が立て続けに入ったためです。

今週のキノコプロジェクトは、受注販売のような理想的な形をとることができています。
あらかじめ買い手が決まっている状態で、必要な分だけを収穫し、新鮮な状態でダイレクトに手渡してお金に変える。在庫リスクを極限までゼロに抑えたこの極めて健全なサイクルは、スモールスタートのアグリビジネスにおいて、これ以上ない強力な強みです。自ら蒔いた営業の種が、こうして確実な需要として回り始めています。

お昼過ぎには家で2時間ほどじっくりと休憩をとりました。 最近の過酷な肉体労働と営業の疲れを癒やすために、この「昼寝」の時間が今の私にとって非常に重要な回復プロセスになっています。横になって頭と身体を完全にオフにするだけで、午後からの稼働エネルギーが見違えるほどに復活する。自分の身体の声をよく聞き、適切なペース配分を組み立てるのも、この地でサバイバルを続けるための大切な技術です。

鍬が描く美しいラインと、プロセスが効率化されていく知的な興奮

午後14時からは、再び農家さんのもとへ戻り、いちごの新しいプロットへの定植作業に取り組みました。

今日行ったのは、土に堆肥を満遍なく混ぜ込み、メジャーを使ってきっちりと幅を測定し、そこへ苗を丁寧に植え付けていくという、一連の本格的な農作業です。

農家さんと二人で並び、鍬を振るいながら、自分の身体の中に確かな「変化」が起きていることに気づきました。

プロジェクトを始めた初期に比べて、私自身の鍬の使い方が、劇的に上達しています。無駄な力みが抜け、最小限のエネルギーで土を綺麗にすくい上げ、狙った場所に真っ直ぐな畝のラインを描くことができる。 それだけでなく、資材を運ぶタイミング、苗を配置する順序、二人の連携の呼吸など、作業全体のプロセスが驚くほど洗練され、無駄な動きが極限まで削ぎ落とされていました。

3時間ほど二人で集中して手を動かし、気がつけば見事な新規いちご区画が完成していました。

「無駄が削ぎ落とされ、作業がどんどん効率化されていく」

この、頭の中でシミュレーションした最適な設計が、自分の肉体を通じて眼前の現実へと美しく着地していくプロセスには、言葉にできないほど強烈な興奮を覚えます。
肉体労働でありながら、これほどまでに知的で、クリエイティブなゲームは他にないのではないか、と耕されたばかりの美しい黒土を見つめながら実感していました。

テレビが煽る夢と、「根拠の弱い自信」を管理する冷静さ

作業の合間、いちご農家の旦那さんとこれからの将来について少し話をしました。
旦那さんは、新しく並んだうねを見つめながら、ポツリと独り言のように呟きました。

「いっそのこと、うちの畑すべてをいちご栽培に専念させて、一気に規模を拡大してみるのもいいかもしれないな」

話を聞くと、どうやら最近、ケニアのテレビ番組で「いちご栽培によって大金を稼ぎ、大成功を収めた国内の農家」の特集を目にしたのだそうです。

彼がプロジェクトに対してこれほどまでに高い関心を持ち、やる気を出して主体的になってくれていることはありがたいことですし、大歓迎すべき変化です。 ただ、その一方で、メディアの華やかな成功事例に影響されただけの、「根拠の弱い自信」や「根拠なき楽観」は、往々にしてスモールビジネスにおいて致命傷になり得ます。

いちごは高付加価値で夢のある作物ですが、同時に、水分ストレスや病害虫、鳥害といった栽培リスクが極めて高い、繊細な植物です。技術的なノウハウや確実なB2Bの販路、そして失敗した際のリスクヘッジがない状態で、ただ「儲かりそうだから」という弱い根拠だけで一気に全財産を投資して勝負に出ることは、あまりにも危険なギャンブルです。

やる気とモチベーションに火をつけることは大切。しかし、その火が大きくなりすぎて自滅してしまわないよう、現実的なデータとシビアな段階を示して、彼らの熱量を適切にコントロールしてあげること。それこそ、伴走者であり普及員である私に求められている、極めて重要なマネジメント能力なのだと思います。

来週、まずはこの新規プロットの苗がどう根付くか。
その結果を見てから、次のステップの拡大計画を一緒に綿密に立てようと思います。

今夜もいただいた豊かな水を使い、丁寧に自炊をして、明日からの計画をノートに整理します。明日もまた、この手の中に残る鍬の確かな感触を大切にしながら、目の前の農家さんと一歩ずつ、マトゥングの市場を耕していきます。