【ケニア派遣209日目】たわわに実った18パックのキノコ。息子の「売りたい」を阻む父親の言葉に怒りを覚えた日

ケニア派遣209日目。4日ぶりのキノコ収穫で18パックもの見事な実りに恵まれるなか、農家の息子が「自分で10パック売りに行く」と自発的な挑戦を表明。それを茶化す父親への葛藤を抱えつつ、袋を忘れてキノコを抱えて歩いたことで生まれた、外国人としての注目度を活かした「ゲリラ営業」の可能性と、ボスと語り合う4Ps戦略を綴ります。

4日ぶりのたわわな実りと、息子の頼もしい挑戦

4日ぶりとなるキノコの収穫を行うため、期待を胸に農家さんのプロットへと向かいました。

栽培部屋の扉を開けると、驚くほどたくさんのキノコが成っていました。たわわ、たわわ
農家さんの息子と一緒に、一つひとつ傷つけないように丁寧にもぎ取っていきます。少し収穫のタイミングが遅れて傘が大きくなりすぎてしまっているものや、水分を多く含みすぎているものもありましたが、全体としては満足の出来栄えです。

収穫が遅すぎても早すぎてもいけないのが、きのこです。
毎日私が張り付いて管理しているわけではない環境のなかで、ベストな収穫タイミングを見極めるのは、なかなかにハードルが高いですが、何とか今のところ、大きな問題なく進められています。

結局、今回は全部で18パック分のキノコを収穫することができました。
収穫できた嬉しさの反面、次に立ちはだかるのは「どうやって売りさばくか」という販路の問題です。

ありがたいことに、全体の3分の1(6パック)はすでに事前注文が入っていました。
勝負は、残りの3分の2(12パック)をどう完売させるか。

頭の中で計算を巡らせていると、農家さんの息子が、恥ずかしそうに、でも力強い声で 「僕が、自分で10パック売りに行ってくるよ」と言ってくれました。

この自発的な一言が、とても嬉しかった。たとえ結果的に全部が売れなかったとしても、彼が「自分のビジネス」として主体的にチャレンジしようとしてくれている、その姿勢自体がプロジェクトにとって最大の価値であり、希望です。

しかし、その頼もしい息子の言葉を遮るように、オーナーである父親が「そんなの、お前には無理だろ」と鼻で笑い、茶化してきました。

さすがに、これには心の底から強い怒りが湧き上がってきました。自ら動こうとせず、ただ見ているだけの人間が、これから一生懸命に新しい一歩を踏み出そうとしている子どものやる気を削ぎ、挑戦の芽を摘むような真似を絶対に許してはいけない。
「頑張ろうとしている若者を、絶対に邪魔するな」 怒りをぐっとこらえ、引きつる表情をなんとかコントロールしながら、息子さんに「素晴らしい挑戦だね、応援するよ」としっかりと伝えました。

剥き出しのキノコを抱えて歩く「ムズング・マーケティング」

収穫を終えてオフィスに戻る際、うっかり商品を運ぶための袋を忘れてきてしまったことに気づきました。
仕方がなく、8パックのキノコを両手いっぱいに抱え込むようにして、マトゥングの道を歩いて帰ることに。

これが、思いがけない「ゲリラマーケティング」の舞台になりました。

キノコを胸に抱えて歩いていると、すれ違う人たちの実におよそ「9割」から、 「それは何だ?売っているのか?」 と、次々に興味津々で声をかけられました。

抱えて歩く私の姿が、まるでレストランのホールでウェイターが美味しそうな料理を運んでいるのを目で追ってしまうような、強烈なアイキャッチになっていたのだと思います。すれ違う人々に調理法を説明し、世間話を交わしながら帰ったため、帰路は往路の倍以上の時間がかかりました。

もちろん、声をかけてくる多くの人々は「今はお金がないから買えないよ(今は…じゃないだろと思いつつ?)」と言います。しかし、なかにはその場でお財布を開いて、実際に買ってくれる人もいました。 キノコそのものに、周囲を惹きつけるような強い香りはまだ足りないかもしれない。
しかし、私のこの「ムズング(外国人)」という目立つアイデンティティと、キノコを直接抱えて歩くというビジュアルを掛け合わせることで、地域の人々の注目を一瞬で集めることができる。外を歩くことそのものが、とても強力で得策なプロモーション活動になり得るのだと、身を以て学びました。

ボスと描く「4Ps」の戦略と、自立営業への決意

事務所に戻ると、さっそく事務所長(ボス)にキノコの初収穫を報告し、今後の具体的な販売戦略についてディスカッションを行いました。

どうやってこのキノコを市場に定着させていくか。
ボスからは、大きく分けて2つのルートを提案してもらいました。

  1. 行政関連のオフィスへの「御用聞き」営業
    一度キノコを購入してくれた現地スタッフのリピート率は非常に高いです。まずは、私たちがアプローチしやすい地方政府や行政関連のオフィスを狙い、個人の顧客(ファン)を地道に獲得していく。今の小さな生産規模であれば、この地産地消の直販モデルだけでも十分に捌ききれるはずです。
  2. 大きな商圏のレストランやホテルへの展開
    ボスいわく、カカメガの中心部にあるレストランやホテルであれば、すでにマッシュルームを食べたことのある客層が一定数存在しているとのこと。

ボスは「紹介するから事前にアポイントメントを取って営業に行きな」と頼もしい言葉をかけてくれました。
……ただ、これまでの経験上、事務所の同僚たちが実際にアポを裏で手配して私に紹介してくれることは、基本的には期待できません。彼らは結局、口で言うほど動いてはくれないのです。

でも、それでいい。その適当さにはすっかり慣れています。
紹介を待つくらいなら、自分で直接レストランのドアを叩き、マネージャーを引きずり出してサンプルを握らせる方が、何倍も早くて確実です。飛び込み営業なんてもう朝飯前です。

場所(Place)を広げること以上に、今後の本当の課題は「安定した供給」ができるかどうかです。 せっかくレストランと契約を結んでも、次の週に「カビが生えたので今週は納品できません」では、ビジネスとしての信頼は一瞬で崩壊してしまいます。商圏をどこまで拡大するかは、日々の生産リスクと照らし合わせながら、慎重に見極めていくつもりです。

売り場所(Place)だけでなく、製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)を含めた「4Ps」の課題を1つずつ解きほぐしていく。フレームワークを意識していたわけではありませんが結果的にディスカッション内容がそこに通じており興味深いです。
マトゥングでのアグリビジネスが、どんどん論理的で、最高に面白いフェーズに入ってきたのを感じます。

昨日から続いている停電のせいで、帰宅後にやろうと思っていたラベル作りやオンラインでのミーティングは、すべて中止にするしかありませんでした。 電気がなければ、これ以上ジタバタしても仕方がありません。

明日の朝、息子の挑戦がどんな結果をもたらしてくれるかを楽しみにしながら。
今夜は早い時間からベッドに入り、静かな暗闇のなかで、心地よい興奮とともに深い眠りにつきました。