1時間の待ちぼうけと、胸の中の小さなイライラ
今日は、先走ってフライング気味に発生してしまったキノコをいよいよ収穫するため、朝からパートナー農家さんのフィールドへと向かいました。
前日に「9時に集合しよう」とオフィサーの同僚に伝えたところ、「10時がいい」と返されたため、彼女の提案通り10時少し前には現地に到着していました。
しかし、結局彼女が姿を現したのは11時前。
約束の時間を丸々1時間近くオーバーしての合流でした。
ケニアに半年も暮らしていれば、この国独特のルーズな時間感覚にはすっかり慣れたつもりでいました。しかし、今日はなぜか胸の奥からイライラとした感情が湧き上がってくるのを止められませんでした。
これだけ待つ時間があるなら、他のデスクワークや別の作業ができたのに…
そんなふうに時間を合理的に切り詰めようとする自分を省みて、「ああ、自分の中の『日本人』としての時間への厳しい感覚が、まだまだ抜けきっていないんだな」と実感しました。
でも、決して悪いことではないと思います。時間を有限な資産として大切にする感覚があるからこそ、ダラダラとした環境のなかでも活動の進捗管理ができる。この葛藤は、自分の持ち味としてあえて残したまま、ケニアの風に適応していこうと思います。
わずか2口のキノコが連れてきてくれた、溢れる笑顔
何はともあれ、同僚が到着したあとに、ついに記念すべき最初のキノコを収穫しました。
今回は本当にごくわずかなフライング収穫だったため、市場へ売りに行くのではなく、農家さんや同僚と一緒にその場で少しだけ試食してみることに。一人あたりほんの2〜3口ずつ口に運べる程度の、本当にささやかな量です。
しかし、そのたった数口のキノコを口にした瞬間、みんなの顔にパッと驚くような嬉しそうな笑顔が広がりました。
販売網を確立して売上を立てるという「1サイクル目の本当のゴール」はまだずっと先です。けれど、自分たちが泥にまみれて作った部屋で、カビに怯えながら水を撒き、丁寧に育ててきた菌床から生まれた本物のキノコ。それをみんなで分け合って笑顔になれた。 その光景を見られただけで、これまでの苦労がすべて洗い流され、報われたような気持ちになりました。やっぱり、形にするって、ものすごく意味のあることです。

スイカの教訓:同僚が語った「マーケットファースト」の本質
試食を終えて皆の心が温まったところで、私たちはすぐにプロ意識に切り替え、来週からの具体的な販路開拓について真剣なディスカッションを始めました。
ここからが、ビジネスとして最もクリティカルな闘いです。 お互いの役割分担を以下のようにフィックスさせました。
- 同僚オフィサー:地元の地域WhatsAppグループへ一斉に呼びかけ、アプローチを開始。
- パートナー農家:自分の顔が利く近隣住民や、知り合いへの直接的なアプローチ。
- 私:隣町ムミアスや、カカメガの主要なレストラン、スーパーへ自らサンプルを携えて飛び込みの直営業。
来週からは、とにかくサンプルを持ってあちこちを動き回ることになりそうです。
この販路開拓の議論において、同僚がいつも以上に強い熱量で、チームのメンバーに語りかけてくれたのが印象的でした。
「すべてのビジネスは、マーケットを確保することから始めなきゃ絶対にダメ。作ったあとに売り先を探しても遅い」
彼女がこれほど「マーケットイン」にこだわるのには、苦い過去の教訓がありました。かつて彼女は、自分の畑で美味しそうなスイカを大量に栽培し、見事な収穫を得たそうです。しかし、いざ収穫したものの売り先がどこにもなく、買い手がつかないまま、大量のスイカをその場で廃棄せざるを得なかったのだと言います。
汗水流して育てた我が子のような作物が、ただ腐っていくのを見届ける絶望。 その痛烈な失敗の原体験があるからこそ、彼女は私の持っている考え方に深く共鳴し、自分のことのように一生懸命になって、農家さんに「売ることの重要性」を念押ししてくれている。とても頼もしいです。
現実的なシミュレーションとして、週に20キログラムのキノコを完売させることができれば、売上ベースで月に約5万KES(ケニア・シリング)になります。ここマトゥングの田舎において、月5万KESという現金収入は、目を見張るほどの巨大な金額です。
もちろん資材費などのコストはかかっていますが、今回は徹底して現地のローカル素材を活用して初期投資を限界まで抑える工夫をしました。そのため、わずか2サイクルも回せば初期費用を完全に回収し、黒字転換できる健全な財務モデルが描けています。 まずは1件、しっかりとした直接買取の契約を取ってくること。来週からの営業活動、気合を入れて頑張ります。

撒いた種が芽吹き始め、形にこだわる1ヶ月へ
販路開拓と同時に、もう一つの仕掛けが動き出しました。
地域の農家を広く集めて、私たちの栽培技術やビジネスモデルを実演する「フィールドデイ」の開催です。
来月の中旬を目処にスケジュールを組み、マトゥングのやる気ある農家さんたちを30〜50人規模で一堂に集めて開催する計画です。 もちろん、こちらの思うようにスケジュールが進むとは限りませんし、集客が思い通りにいくかも分かりません。それでも、同僚オフィサーと信頼のバトンをがっちりと繋ぎながら、とにかく「形にすること」に徹底的にこだわって進めていこうと思います。
今までこの任地で地道に撒き続けてきた活動の種たちが、いちごの増殖やキノコの小さな試食という形で、少しずつ地上へと芽を出し始めている。そんな確かな手応えを感じています。
これからの1ヶ月は忙しくなりそうです。予定していた他地域のリンゴ先進地への遠方視察は一旦お預けにして、今は目の前のキノコを売ることに全リソースを集中させます。
今夜も、深夜2時からサッカー日本代表のワールドカップ第3戦が控えています。
美味しい夜ご飯を食べて、アラームをセットし、早々に布団へ潜り込みました。
ピッチで戦う同世代に負けないように。私もマトゥングの市場という自分のピッチで、来週からしっかりと足を動かします。
