【ケニア派遣192日目】欠けた10%より、満ちた90%を見る。「褒める」ことが耕す農家のモチベーション

ケニア派遣192日目。きのこ栽培は順調に進み、来週にはいよいよ菌床袋を開封して収穫期へ。VCに褒められてやる気を出した農家の息子さんの姿から、めったに褒められないケニアの教育や職場で「褒めること」が持つ本当の価値と、二本松訓練所で学んだ視力検査の「C」の教訓を振り返ります。

きのこの発芽準備と、ケニアにおける「褒める」ことの魔法

午前中は、きのこの進捗確認へ向かいました。

全体的に大きなトラブルもなく、とても順調に進んでいました。いくつかの袋では菌糸の蔓延(コロナイゼーション)がしっかりと完了しており、すでにキノコが発生するための準備(ピンニングの段階)が整っています。 来週中には袋を開封し、来週末から再来週にかけて、いよいよ最初の収穫が始められそうな手応えを得ました。

現場で嬉しかったのは、農家さんの息子さんがやる気を出して管理に励んでくれていたことです。昨日、訪問してくれたボランティアコーディネーター(VC)さんに、彼がすごくいい感じにヨイショされて褒めちぎられていたのです。それがよほど嬉しかったのか、目に見えてモチベーションが高まっていました。

そういえば以前、いちご農家さんが自主的に動いてくれた時も、事務所の同僚がものすごく褒めて盛り上げていたのを思い出します。

ケニアの教育現場や職場では、「他人を褒める」という習慣がほとんどありません。 叱責や厳しい指導が当たり前になりがちな環境だからこそ、この社会において他者から真っ直ぐに褒められることは、私たちの想像以上に大きな価値を持ち、心を動かす魔法になるのかもしれません。

日本での二本松訓練所時代、ケアテイカーや教育専門の隊員の方が人を認めて褒める方法やその重要性について、深く話してくれたことを思い出しました。

「視力検査で使う、一部が開いた『C』の文字(ランドルト環)を見たとき、人はどうしてもその欠けている10%の隙間にばかり目を奪われてしまう。しかし、本当に大切なのは、すでに綺麗に繋がっている残りの90%の丸い部分をちゃんと見て、認めてあげることだ。」

技術の至らなさや、些細なミスの10%ばかりを指摘して評価を下すのではなく、農家さんたちが自発的に取り組んでくれている90%の努力にしっかりスポットライトを当てて、褒めること。 厳しい不条理の多い現地だからこそ、この温かいアプローチを、これからの普及活動でもっと大切に意識していこうと思います。

自分たちから始める、りんご栽培への次の一手

事務所に戻った後は、ボスと新しい仕掛けについてお話をしました。

テーマは、「りんご栽培」について。 きのこの最初の収穫と普及プランが少し落ち着いたら、さっそくりんごの先進事例を勉強しにいくためのアポイントメントを、すでにしっかりと押さえました。

ボスと議論するなかで、 「まずは農家にやらせるのではなく、事務所の自分たちの手でテスト栽培をして成功モデルを掴もう」という方針で一致しました。 ありがたいことに、事務所のメンバーが苗代等を全面的に支援すると言ってくれました。(彼女のその言葉がどこまで本気かはまだ分かりませんが…)着実に勉強を進めていこうと思います。

電気が戻った我が家と、大家さんの「金曜の優しさ」

午後は自宅に戻り、久しぶりのタスクをこなしました。

数日間続いていた絶望的な停電が、ようやく復旧。 久しぶりに煌々と灯る明かりの中で、やりたかったPC作業やデータの整理を、滞りなく進めることができました。インフラが当たり前に動くことの快適さに、改めて深く感謝します。

用事を済ませていつもより少し早い時間に家に入ろうとすると、大家さんにバッタリ遭遇しました。 私の顔を見るなり、大家さんは穏やかに笑いかけてくれました。

「今日は金曜だから、早く帰ってきたのかい?たまにはしっかり体を休めな」

ケニアの田舎において「金曜日だから早く帰って休む」という感覚が一般的なのかはちょっとよく分かりませんでしたが、そのさりげない気遣いと温かい言葉が、体に溜まっていた1週間の疲れをすっと溶かしてくれるようでした。

ここマトゥングの地には、確かに不便や言葉の壁といった冷酷な現実もあります。しかし、そこにはいつでも、人を真っ直ぐに褒めて喜ぶ農家がいて、味方になってくれるボスがいて、帰りを優しく気にかけてくれる大家さんがいる。

しっかりと英気を養い、来週のきのこ初収穫を、最高な形で迎えたいと思います。