3者合意と、VCが残してくれた軌道修正の羅針盤
今日は、JICAケニア事務所から担当のボランティアコーディネーター(VC)の方が、私の任地マトゥングまで来てくださいました。
目的は、農業事務所(受け入れ先)、JICA事務所、そして私の3者で、今後1年半の活動計画の方向性をすり合わせる「3者合意」の実施、および現場フィールドの視察です。
ここで少し説明しておくと、ボランティアコーディネーター(VC)とは、現地で泥臭く活動する私たち協力隊員の「活動」と「生活」のすべてを、一番近い距離から支えてくれるJICAの専門サポート職員の方のことです。
配属先との難しい関係調整や今回のような3者合意のファシリテーションといった『活動面』のサポートはもちろん、不慣れな途上国生活でのインフラトラブルや安全管理といった『生活面』の盾となり、時には異国での葛藤やストレスを誰よりも親身に聞いてくれる『心のメンター』でもあります。 JICA事務所と現場の架け橋であり、私たちが安心して活動に没頭できるように裏方で全力の伴走をしてくれる、本当に心強く、頭の上がらない頼れるパートナーです。
そんなVCさんを迎え、これからの計画についてのディスカッションが始まりました。 活動計画の内容については、事前に入念にコミュニケーションを取っていたため、大きなズレもなく、終始スムーズに進めることができました。まずは、この土台がしっかりとフィックスしたことにホッとしています。
しかし、ディスカッションの中でVCさんからいただいたアドバイスは、これからの活動を進める上で、とても重要な羅針盤となりました。
農業事務所としては活動を早く横展開し、協力農家をどんどん増やしたいと焦りがちですが、VCさんから「まずは絶対にパイロット農家での小さな成功事例(モデルケース)を完成させなさい」と、強く念を押されました。
自分のためのメモも兼ねて、会議の中で整理した活動計画のポイントをここに書き留めておきます。
1. ナンバーワン優先順位は「販路開拓」
- 「パイロット農家の成功」がすべての鍵:新しい作物を導入する際、最初の先駆者(パイロット農家)が確実に「利益」を得る姿を周囲に見せない限り、他の農家は絶対にその作物を信用してくれない。まずは今の農家との関係を盤石にし、確実に売って儲けさせること。
- アグリビジネス(生計向上)を第一優先に:栄養改善や病院・学校との連携は配属先として素晴らしい目標だが、栄養改善の成果(健康への効果など)を客観的に証明するには膨大な時間とデータが必要になる。よって栄養改善は第2優先とし、まずは何をおいても「現金収入」という実利を最優先で証明する。
- 需要と供給のバランス管理:プロダクトアウトを徹底的に避ける。市場の需要を超えて農家を無理に増やさないよう、バランスを慎重に見極める。
- スーパーの地元野菜の「直接買取」を狙う: いちごやきのこの本格的な収穫ができたら、最初から小難しい契約や書類を交わそうとせず、まずは地元のスーパーの野菜コーナーのマネージャーへ直にアプローチする。実物を持っていって、とにかくその場でマネージャーに「味見」をしてもらう。この、シンプルだけど最も強力で説得力のあるアクションから、仕掛けていく。
2. きのこ・りんご・加工品における現実的なリスク
- きのこ栽培の速やかな収益化:カビによる廃棄トラブルを乗り越え、生存している培地から得られる最初の利益を農家自身に実感させ、当事者意識を引き出す。
- りんご栽培における「苗の無料配布」の罠:
- 自分で収穫を見るまで配らない:ケニアでこの先、りんご栽培を普及させたいと考えているが、「自分が実際に目の前でりんごの実を収穫して成功させる」までは、絶対に他の農家に苗を配ってはいけない。
- 無料配布のリスク:過去のボランティアの失敗事例として、タダで苗を配ると農家は価値を感じず、途中で簡単に放棄してしまう。
- 中規模農家からのスタート:りんごの苗木は1本1,000KESとスモール農家には非常に高価。まずは購入能力のある中規模の農家に身銭を切って買ってもらい、そこで成功してからスモールクラスへと広げていく。
- 既存グループの販路確認:近隣エリアに既存のりんご農家グループがいるが、そこが本当に市場を確保できているかをまず確認する。また、遠すぎる活動地はオフィサーの訪問頻度やリソースを圧迫するため、安易に手を広げず優先順位を冷静に判断する。
- 加工品開発のコスト計算:輸送費やパッケージ資材を含めたすべてのコストパフォーマンスを厳密に計算し、「何個売れば利益が出るか」をシビアに計算する。
3. 4Kクラブ(学校農業クラブ)でのインセンティブとお金
- 先生や校長の「見返り」を用意する:4Kクラブは学校側、特に担当の先生にとって「余計な追加業務」になりがち。ただ教育的意義を説くだけでなく、プロジェクトが成功した際には「先進校モデル」として郡政府に大々的にPRするなど、先生たちのモチベーションになるインセンティブを設計する。
- お金の管理(Bookkeeping)の厳格化:生徒たちが育てたいちごやキノコを売って得たお金の管理には、細心の注意を払う。管理を学校側に丸投げして曖昧にしていると、誰かがそのお金をすべて持ち去ってしまうのが途上国の悲しい「現実」である。最初から明確な会計管理システムを導入する。

フィールド視察での対話と、明日からの第一歩
ディスカッションの後は、実際にいちごやきのこを育てている農場をVCさんと一緒に視察しました。
視察の道中、目の前で育っている作物を見ながら、実践的なアドバイスをもらいました。
いちごに関しては、これから本格化する苗の剪定や摘果について。
きのこに関しては、栽培における農家さんの主体性をいかに維持させていくかという、コミュニティ開発ならではの根深い課題について、現場の状況を見ながら一緒に話し合いました。
今日の会議とフィールド視察を通じて、やるべき活動の優先順位がすっきりと明確になりました。
VCさんが念を押していた販売実行についても、収穫が近づき、いよいよ行動に移す時がです。頭の中で描いてきた計画を、ただの絵に描いた餅に終わらせないために、収穫のタイミングに合わせて自らサンプルを抱えてスーパーへ突撃する準備を進めていこうと思います。

暗闇の中でのタスク整理と、カカメガの仲間たち
VCさんを見送った午後は、家に戻ってタスクの整理を行いました。
しかし、相変わらず水も電気もない環境だったため元気が削がれ、やる気が出ない。それでも、今日いただいた多くの具体的なアドバイスを、農業事務所以外で行っている活動のタスクも含めて、1つずつ頭の中で整理していきました。
夜には、久しぶりにカカメガ郡に派遣されている他の隊員3人とオンラインで会話をする時間が持てました。
それぞれが抱える現状をシェアし、お互いのナレッジを共有しながら、次に一緒にやりたいプロジェクトについて話し合う時間は、とても有意義でした。
今年の9月からは、カカメガ郡内に新しく農業事務所配属のコミュニティ開発隊員が合流する予定です。 どんな方が来るのかはまだ分かりませんが、このカカメガという広大で田舎の地で、4人で協力して面白いシナジーを起こしていけたらと思っています。
一人でできることの限界を知っているからこそ、仲間と手を取り合い、そして現地のオフィサーや農家さんと肩を並べて進むことの価値がよく分かります。
まずは、目の前のパイロット農家の販路を作り、最初の成功モデルを完成させる。
やるべきことが明確になった今、あとは現場でその答えを1つずつ手繰り寄せていくだけです。
明日からもまた、楽しんでやっていきます。
