9時間労働の腰痛と、「サボりたい」から生まれるイノベーション
今日は、丸一日パートナー農家さんと一緒にいちご畑での作業に没頭しました。
朝の9時から、気がつけば日が暮れかける18時半頃まで。 お昼に30分ほどの休憩を挟んだだけで、実に9時間近く、ひたすら土に向き合って鍬を振り、手を動かし続けました。
当然、作業量が多ければ多いほど、身体、特に腰に強烈な負荷がかかります。 私たちのいちごは土を高く盛った「高畝」で育てていますが、これを中腰で世話し続けるのはなかなかに骨が折れます。日本で見かけるような、立ったまま作業ができる「高設栽培(机の上のようなシステム)」を導入できたら、どれほど作業が楽になるだろうか……と、痛む腰をさすりながら痛切に感じていました。
さらに、今回は3列に並んだ畝の管理。これもまた、想像以上にきついのです。 効率や身体への負担を考えると、「どうしてこのやり方にこだわるんだろう、なんの合理性もないのにな」と首を傾げたくなる局面がしばしばあります。それでも、農家さん自身が大切にしているこだわりや従来のスタイルがあるため、プロジェクトの成否に関わる決定的な部分以外は、彼らの意思を最大限に尊重するようにしています。
ただ、この痛む腰を抱えながら作業していると、「いかに楽をしてサボるか」を真剣に考えることが、結果として業務の効率化や新しい技術の導入(=イノベーション)に繋がっていくのだと感じます。
ただ辛い労働を伝統だからと我慢して繰り返すのではなく、「もっと楽に作業したい」という極めて人間的で、怠惰とも言える欲求を原動力にする。それが、高設栽培のような新しいシステムを生み出すきっかけになる。農業における業務効率化の本質は、きっとこの「サボりたい」という意志の先にあるのだと思います。

苗1,000個突破と、指導者に成長した彼女の姿
明日は、JICAケニア事務所の関係者の方が任地マトゥングに視察にやってきます。 そのイベントを控えているからか、今日のパートナー農家さんはいつにも増して気合が入り、とても張り切って作業を進めてくれました。その前向きなエネルギーに引っ張られるようにして、今日予定していたきつい作業をすべて、無事に終えることができました。
そして、私たちのいちごの苗は、ついに約1,000個という大台を突破しました。
ここからは、いよいよ待望の果実作りの本格的なフェーズへと移行します。 これだけ強固な足元が完成したのです。遅くとも今年の年末までには、マトゥング産のいちごを一定量、市場に出荷できるのではないかという確かな手応えを感じています。ここから、さらに彼女と一緒にギアを上げて頑張っていきます。
このいちごプロジェクトを始めて、およそ4ヶ月。日々泥にまみれて試行錯誤を繰り返すなかで、私たちの手元には本当にたくさんの生きた経験と、確かな知見が溜まってきました。
何より感動させられるのは、農家さん自身の成長です。 最初は私の指示を待つばかりだった彼女が、今では新しく興味を持ってくれた別の農家さんに対して、自分の言葉でいちごの育て方を説明し、簡単なトレーニングまでこなせるレベルにまで達しています。
彼女はもう、単なる「栽培パートナー」ではなく、地域における立派な「普及の指導者」です。
頼もしいと感じます。

もぎたてのメイズと、農業が持つ「食との近さ」
1日の過酷な肉体労働が終わり、帰り際、農場からたくさんのお土産をいただきました。 立派なバナナ、そして収穫したばかりのメイズ(トウモロコシ)です。
日本にいた頃、私もいくつかの農家さんのもとで働かせていただいていましたが、その時も作業の終わりにはいつも、抱えきれないほどの新鮮な野菜をいただいていました。
太陽の下で汗を流して作物を育て、その泥を洗い流し、もぎたての新鮮な味をそのままいただく。 これは、お金をいくら積んでも得られない、本当に贅沢で、心から幸せだと感じられる瞬間です。 「生産した食の価値に、誰よりも一番最初に出会える近さ」 これこそが、農業という営みが持つ、何物にも代えがたい最大の魅力なのだと、改めて強く実感しました。 とてもありがたい、幸の極みです。
夜、いただいたばかりのトウモロコシの皮を剥き、フライパンにバターを溶かして醤油を垂らし、香ばしく焼き上げました。
一口かじると、醤油の塩気とバターのコク、器具の熱で弾けるような粒の食感が口いっぱいに広がります。 正直、日本の極甘のスイートコーンの足元にも及ばない、少し固くて素朴な味です。でも、自分の手で鍬を振るった一日の終わりに食べるこの焼きメイズはとても、とても美味しかったです。これ以上ない贅沢なディナーです。

日経平均7万円と、ケニアの畑から見つめる「金利のある世界」
美味しいトウモロコシを頬張りながら、何気なく部屋のテレビを眺めていると、地球の裏側のニュースが目に飛び込んできました。
日本の金融界が、歴史的な1日を迎えていました。 日経平均株価がついに「7万円台」という前人未到の領域に到達し、さらに日銀が政策金利を「1%」にまで利上げすることを決定したというニュースです。
ケニアの、のどかで泥臭い田舎の畑で鍬を握っている私からすると、こうしたグローバルマネーの数字の動きは、まるで宇宙の出来事のように遠い話に感じられます。しかし、ケニアのローカルなテレビ画面に日本の経済ニュースと東京のビル群の映像がリアルタイムで映し出されているのを見て、この世界がいかに狭く、地続きで繋がっているかを強烈に意識させられました。
この歴史的な7万円台突破の背景には、イランでの戦争終結に向けた地政学リスク緩和への安心感があり、それに伴って半導体関連株を中心とした高騰が起きたことがあります。
さらに面白かったのが、通常であれば株価にマイナスに働くはずの「利上げ」が、今回はポジティブな要因として市場に歓迎された点です。いよいよ日本が長年のデフレを完全脱却し、経済が正常化へ向かうという力強いシグナルと受け止められ、利ざや改善を見込んだ金融株の上昇や、健全化を評価した海外マネーの急流入を呼び、株価をもう一段力強く押し上げたようです。
一方で、この「金利1%」への移行は、日本の経済社会が金利のある世界(=お金に正しい価値がつく世界)へ回帰したことも意味します。
預金に利息がつく安心感が生まれる一方で、住宅ローンを抱える家庭や、これまで超低金利の恩恵で生き延びていた中小企業にとっては、支払う利息の増加という厳しい現実が牙を剥くことになります。まさにゲームのルールが完全に書き換わったパラダイムシフトです。
目の前にある、私が労働の対価として手に入れた「トウモロコシの現物の価値(実体経済)」。
そして、画面の向こうで何兆円ものマネーが光の速さで行き交う「金融経済」。
どちらも、私たちの世界を形作っている現実です。
ケニアの田舎という離れた場所にいるからこそ、この両極端な2つの経済の仕組みをフラットに見つめることができる気がします。この世界の狭さと近さを噛み締めながら、日本の動きもしっかりとフォローアップしていきたいと思います。
