【ケニア派遣188日目】「手離れ」を前提とするボランティアの限界。身銭を切らない支援と、当事者意識の狭間で

ケニア派遣188日目。病院のいちごの乾燥対策に頭を悩ませる一方、パートナー農家は自発的に防鳥ネットの導入へと動き出し、自立の兆しが見え始めます。しかし、きのこ栽培における管理不足から、JICAの現地業務費用(支援金)に頼る一長一短と、ボランティアという立場の難しさを考察します。

乾季の兆しと、二つのいちご畑のコントラスト

今日から新しい1週間の始まりです。
先週は各方面への訪問やハプニングが重なってバタバタとあっという間に過ぎ去っていきましたが、今週はJICAケニア事務所、そして受入先の農業事務所との「3者合意(活動計画)」に向けたディスカッションを控えつつも、全体的には比較的落ち着いた1週間になりそうです。

週の始まりということで、今日はそれぞれの現場の畑をぐるりと回って進捗を見て回ることにしました。

まずは病院のいちご畑へ。 行ってみると、なんだか全体的に元気がありません。先週、マトゥングではほとんど雨が降らなかったため、乾燥にやられてしまったのだと思います。 いよいよここから、本格的な「乾季」のシーズンが始まります。雨が降るのが当たり前だった季節が終わり、これからは「人間が意識的に水を管理する」というフェーズに入ります。病院のマネージャーに、改めて毎日の水管理を徹底してもらうよう、強く啓蒙していかなければならないと感じました。

一方で、パートナー農家さんのいちご畑はとても順調、状態は悪くありません。 嬉しいことに、農家さん自身が先週、カカメガショーに自主的に参加していちごの活動を広くアピールしてきてくれたそうなのです。その甲斐あって、ショーの会場で私たちのいちごプロジェクトに関心を持ってくれる人が、現地でもすでにちらほら現れ始めているとのこと。 ここから苗がしっかりと売れて、マトゥングの中でいちご農家の仲間がさらに増えていってくれたら、これ以上嬉しいことはありません。

今日はさらに、いちごを鳥から守るための「防鳥ネット」の導入についてディスカッションを重ねました。 カカメガを拠点にしているNGOのところに、ネットを含めた使えそうな資材が色々揃っているらしいという情報を農家さん自身がキャッチしていました。私の方でもいくつか資材の調達先を探してはいたのですが、こういうローカルな探索や交渉は、やはり現地の農家さん自身に任せた方が圧倒的にスムーズです。 こうして、彼が自分のビジネスとして自発的に動いてくれる姿を見るのは、本当にありがたく、頼もしい限りです。

身銭を切らない支援の罠と、「手離れ」の難しさ

続いて、問題のきのこ栽培プロットの確認へ。 いよいよ、全体的に収穫の時期が近づいてきているな、という手応えを菌床の様子から感じました。 以前に緑カビに侵食されてしまった袋は、残念ながら今日もいくつか廃棄処分することになりましたが、別室に隔離した生存組の袋も含め、全体としては菌糸の蔓延がしっかりと進んでいます。

しかし、現場を見ていて、胸の奥にどうしても拭えないモヤモヤとした課題が残りました。 農家自身が、このきのこたちを主体的に管理しようとする熱量が、相変わらずあまり感じられないのです。 毎日チェックをすること、異変にすぐ気づくこと。そうした当たり前の管理を私たちがいない時にもやってもらうのは、現時点ではもう諦めるしかないのかな、という半分冷めた感情さえ湧いてきました。

どうして、いちご農家さんはあんなに自発的に動くのに、きのこ農家さんは受け身のままなのか。 考えていくうちに、JICAの現地業務費用を支援として使ったことの一長一短に突き当たりました。

自分で身銭を切ってお金を払っていないから、当事者意識がどうしても生まれにくい。 「最悪、失敗しても自分のお金が消えるわけではない」という甘えが、無意識のうちに彼らの管理をルーズにさせてしまっているのだと思います。

もちろん、このきのこ栽培のトライアルは初期投資もそれなりに必要でしたし、マトゥングの土地で本当にうまくいくかどうかの確実なデータもない、リスクの高い挑戦でした。だから、最初の段階から「全部あなた自身のお金でリスクを負って始めてください」と農家に迫るのは、途上国の経済環境を考えれば酷であり、あまりにも現実的ではありません。支援費用でその最初のハードルを下げてあげること自体は、間違っていなかったはずです。

しかし、ここにボランティアという「関わり方」の構造的な難しさがあります。

もしも、私自身がここケニアで利益を得ていい民間のビジネスプレイヤーであれば、もっと簡単だったのかもしれません。「私が自分の資金を投資する。だから管理を徹底してくれ。その代わり、出た利益は分け合おう」と、お互いの利害関係をインセンティブにして力強く引っ張ることができるからです。

けれど、協力隊員である私は、活動から一切のお金を受け取ってはいけません。そして、任期が終われば必ず現地の農家にプロジェクトを完全に引き渡し、「手離れ」しなければならない。 自分は利益を得ず、最終的にその場から去るという立場の人間が、現地の人々の「純粋なやる気と自発性」だけを頼りにしてプロジェクトを走らせるというのは、言うほど簡単なことではなく、想像以上にタフな作業です。

「どうすれば、彼らの内なる認知を揺さぶり、自発的な熱量を引き出せるのか」 この協力隊の永遠のテーマのような問いに対して、下半期はもっと泥臭く、頭を使って、仕組みを工夫しながら向き合っていかなければならないと痛感しています。

PCの画面を閉じて、答えのない現場へ

夕方からは自宅に戻り、マッシュルームプロジェクトの現地業務費用の精算レポートや、今週行われるJICA・農業事務所との3者合意ディスカッションに向けた資料作成など、PCを使った事務作業に没頭しました。

デスクに向かってキーボードを叩きながら、ふと考えたことがあります。

それは、「このケニアでの活動において、一部の活動報告書や資料作成といった特定の事務タスクを除けば、PCの画面といくらにらめっこしていても、答えは絶対に生まれてこない」ということでした。

いちごの乾燥問題も、きのこの管理不足というオーナーシップの課題も、どれだけネットで調べ物をし、部屋の中で机上の空論を組み立てて予習していても、解決策は出てきません。現場の土の上に出て初めて、想定していなかった課題が次々にむき出しになって立ち塞がり、そこで初めて解決のための糸口が見つかる。 現場に出て、彼らと話し、泥を触り、一つひとつの不条理を泥臭くクリアしていくこと。それ以外に、活動を前に進める術はないのだと思います。

本当に難しいことだらけで、頭を抱えてばかりの毎日です。
でも、不思議と。その一筋縄ではいかない不条理をひっくるめて、とても楽しく活動できています。

今週の3者合意に向けてしっかりと机の上の足元を固めつつ、明日からもまた、答えの待つ現場へと足を運んでいきたいと思います。

週末から始まった排水路の工事。機械なしの全部人力作業ですが、あっという間に進んでいました。