【ケニア派遣184日目】「カビ半分」は想定内?動揺する同僚と駆けつけたトレーナーに救われた日

絶望からの急展開と、トレーナーの「ケニア基準」

きのこが半分死んだ。

昨日、その悲惨な状況を同僚と一緒に確認したのですが、カビだらけの惨状を前に、激しく動揺した同僚がその場でトレーナーに電話をかけて、色々と状況を話してくれました。 電話越しでも彼女のただならぬ焦りがよほど伝わったのか、今日、トレーナーが急遽マトゥングまで駆けつけてくれました。仲間がそこまで真剣に動いてくれたその熱意に、温かい気持ちになります。

さっそく、這い寄る緑カビに侵食された菌床袋を見てもらうと、トレーナーはあっさりと笑いました。

「悪くない。動揺する必要はない」

確かにいくつかの袋は完全にカビにやられてしまっているけれど、これくらいは十分に許容範囲内なのだそうです。 種菌そのものが最初からコンタミ(雑菌混入)していることもあるため、ケニアでの栽培においては、全体の20%程度が最初からダメになることは最初から計算に入れて計画を立てているのだとか。 なんとも、おおらかで、逞しい、いかにもケニアらしい基準だなと妙に納得してしまいました。

半分死んだと勝手に思い込んで絶望していましたが、全滅したわけではありません 。

「パニックになる必要はないし、落ち込む必要も全くない。他の場所では1,000個近くが完全に全滅したことだってあるから。これは良いスタートだよ」と、力強く励ましてくれました。

これ以上の被害を防ぐために、来週からは2日に1回(週に3回程度)のペースで細かくモニタリングを行い、その都度進捗を写真や言葉でトレーナーに報告する、という運用でフィックスしました。 とりあえずはこれで様子を見ます。他の生き残った培地たちは、今のところすこぶる順調に白い菌糸を張り巡らせてくれているようです。

冷静に振り返ってみれば、今回のトライアル、最初からすべてが完璧にうまくいかなくて、逆に本当に良かったなと思います。最初から手放しでうまくいっていたら、私たちは病害虫のリスクや、農家のチェック不足という課題に気づけないまま進み、もっと大きなフェーズで大打撃を受けていたはずだから。

まだまだ悩みもやるべきことも尽きませんが、まずはこの半分をしっかり守り、やりきろうと思います。

カカメガショーと、溢れる未来の主役たち

トレーナーの人と一緒に、午後はカカメガのタウンへと向かいました。

今日のもう一つの目的は、年に1度、開催される農業関連の大規模な展示会「カカメガショー」です。

民間企業、NGO、大学、行政組織にいたるまで、ケニア中のありとあらゆるセクターがブースを連ねるこのイベントは全4日間にわたって行われるそうで、とにかく会場が広い。そして、見るべきものが多すぎて圧倒されます。

会場内には、小学生から高校生くらいまでの子供たちがたくさん詰めかけていました。 皆、学習しにきているようです。彼らにとって、最先端の技術や新しい作物の育て方に触れられるこれ以上ない素晴らしい機会だと思います。キラキラした目でブースを回る子供たちの姿に、この国の未来の可能性が透けて見えるようでした。

今回は、私自身がマトゥングで取り組んでいる活動を積極的にアピールし、各セクターとのコネクション作りにも奔走しました。 大学や企業の関係者と会話をして、連絡先をいただきました。 これで、今進めている「いちご」や「きのこ」はもちろんのこと、これから新しく挑戦したいと考えている「りんご」のプロジェクトに関しても、協力者を募りながら今後活動を進められそうです。

来年は、ただの見学者としてではなく、展示する側のプレイヤーとしてこのカカメガショーに参加したい、いや、します。

会場を歩きながら、そんな野望が胸の中に湧き上がってきました。 やる気と熱量に満ちたケニアの人々と繋がるには、こういう場が本当に最高の機会になります。何より、現地の農家さんと一緒にこの熱気を感じられたことが、何よりの収穫でした。

メイズの渇きと、農業普及員としての原点

数あるブースの中でも、やはりケニアの主食である「メイズ(トウモロコシ)」のコーナーは一際活気があり、品種改良や効率的な育て方の研究展示が数多く並んでいました。

日本にいた頃、私も少しだけとうもろこしの栽培に関わらせてもらう機会がありました。だからこそ、展示されている内容がすんなりと頭に入ってくるし、とても興味深く観察できました。

しかし、ブースにいた種子卸売業者の人と話していると、ケニアが抱える問題点も見えてきました。 「適切な株と株の間隔の取り方や、同じ場所で同じ作物を作り続けることで土が痩せて病気が発生する連作障害などの基本的な知識が、現場の末端の農家たちには、いまだに十分に行き届いていない」 ため息混じりに話してくれました。

主食であり、誰もが毎日食べている作物であるにもかかわらず、育てるための「正しい基礎知識」が届いていない。 だからこそ、天候の不順や病気一発で、生活が立ち行かなくなる農家が後を絶たないのです。

これこそが、私たち農業普及組織が本来果たすべき、最も大きな役割なのではないか。

自分が持ち込んだいちごやきのこのプロジェクトを軌道に乗せることは、もちろん大切です。ただ、それだけに固執して周りが見えなくなってはいけない。 彼らが最も生活の糧にしていて、最も興味が深い「メイズ」や「伝統野菜」、「豆」といった身近な作物について、私自身ももっともっと深い知識を蓄え、日常のフィールドワークの中で正しい知識を地道に伝えていく。

自分の手の中にある小さなプロジェクトの枠を飛び越え、彼らの生活の根底を支える「土台」を強くするための普及活動をしていきたい。 カカメガの熱気の中で、農業普及員としての自分の原点と、マトゥングで果たすべき使命を、思い出した充実した 1日でした。