支援なしで世界を惹きつける「ワンブングアップル」の衝撃
月曜日の朝、ケニア国内のみならずアフリカ全土でその名を知られるリンゴ農園「ワンブングアップル(Wambugu Apple)」の視察へ向かいました。
バスに揺られて向かった先は、想像以上ののどかな田舎町。
本当にこんな場所に巨大な世界的農園があるのだろうかと半信半疑で進んでいたところ、突如として立派な看板と、洗練された綺麗な木造2階建ての施設が目の前に現れました。

この日はWambugu Apples の顔として国内外で活躍する二代目の現オーナーは、ボツワナでの農業イベントに参加しており不在でしたが、敷地内には30〜40人もの従業員が手際よく忙しく立ち働いていました。
現地で案内を受けながら話を聞くと、この農園の成り立ちには息を呑むような素晴らしいイノベーションのストーリーがありました。
初代であるお父様は、1980年代に低収益に苦しんでいたコーヒーの木をすべて伐採。温帯の果物とされていたリンゴを、ケニアのような熱帯・亜熱帯の気候コンディションに適応させるため、粘り強い試行錯誤の末に独自の「ワンブングアップル」品種を開発しました。
従来の原木リンゴが結実までに3〜5年を要するのに対し、この品種はわずか9〜11ヶ月という異例の早さで実をつけ始め、1本の木から50年以上も高収量をあげ続ける圧倒的な生命力を持っています。その革新性はケニア農業畜産研究機構(KALRO)からも正式に認定されています。
過去には海外の投資家から3,000万ケニアシリング(約3,000万円超)で特許買い取りのオファーを受けたものの、「ケニアの農家と自国の農業の未来のため」と一蹴し、自力での事業化を貫いたとそうです。

そして現在は、二代目の子供たちがその意志を継承。
単なる果実や苗木の生産にとどまらず、宿泊、カフェ、本格的な選別・加工・パッキング施設の建設、さらにはドラゴンフルーツやブドウ、桃、アボカドなど他の熱帯果樹へと事業を多角化させ、巨大なアグリビジネスへと拡大させていました。
何より驚かされたのは、NGOや政府からの外部支援金を一切受けない「完全自力」で事業を回している点でした。
自力で資金と利益を循環させています。またオーナーのInstagramのフォロワーは1.6万人を超え、YouTubeや海外の著名なビジネスメディアを巧みに活用したデジタルブランディングを展開。現在ではケニア国内2,500以上の農家にとどまらず、アフリカ全土36カ国以上、さらには英国、北米、南米、カリブ諸島にまで苗木や技術ノウハウを輸出する世界的ブランドへと成長を遂げていました。
企業秘密である接ぎ木の核心技術までは教えてもらえなかったものの、日常の剪定や害虫管理、適切な水やり、土壌づくりといった管理方法についてはとても丁寧に教えていただきました。
私たちの任期やタイムリミット(残り1年半弱)を考えると、リンゴをメインプロジェクトに据えることは現実的ではありません。しかし、一度定着すればメンテナンスが容易で、半世紀にわたって高い収益性を生み出し続ける点には大きな魅力を感じます。
現場の圧倒的な熱気に背中を押され、さっそく自分用の苗木をいくつか購入して持ち帰ることにしました。

悪質な嘘と過酷な遠回り、それも旅の醍醐味
視察を終え、いざ任地への帰路へ。
当初は途中の大きな街ナクル(Nakuru)で一泊しようかとも考えました。しかし、どうしても外のベッドではなく、自分が生活を作っている家で眠りたいという強い気持ちが勝り、ナクルをそのまま通り過ぎて我が家へと直行するルートを選びました。
ただ、結果としてこの判断が裏目に出てしまいました。
乗り込んだ長距離バスのスタッフが、とんでもなくタチの悪い連中だったのです。明らかに足元を見た破格の高額運賃を要求された挙句、約束していた目的地とは全く異なる見知らぬ場所で降ろされてしまいました。
最初から嘘だと分かっていて乗客を騙すような不誠実な態度には、怒りが込み上げてきました。
長距離移動の時こそ、信頼できる大手のバス会社を選ばなければならない。
痛烈な不快感とともに、途上国での交通手段選びにおける重要な教訓を骨の髄まで叩き込まれました。
トラブルに巻き込まれながらも何とか別の足を乗り継ぎ、無事に我が家へと辿り着いたとき、怒りは少しずつおさまっていきました。こうした予定不調和や不条理な出来事すらも後から振り返れば愛おしい旅の醍醐味なのだと、自分を納得させることができたからです。
相変わらずキッチンのシンクからは水が一滴も出てきませんでした。
それでも、我が家の空間は、何物にも代えがたい安心感を与えてくれます。
泥だらけの靴を脱ぎ、買って帰った小さなリンゴの苗木を丁寧に壁際に腰掛けさせました。
トラブルだらけの過酷な道のりでしたが、学びと挑戦の種をしっかり抱えて帰ってこられたことに感謝しながら、今夜は住み慣れた自分の部屋で、身体をゆっくりと休めます。
