遠方配送の壁と、足の速いキノコの宿命
まだ東の空に朝日が昇りきらない6時過ぎ、急ぎ足で家を出てキノコの収穫へと向かいました。
今日の収穫は、いつものローカルな注文とは少し事情が異なっていました。
かなり遠方に位置する「ケリチョ」という町のバイヤーから、「本日のなるべく早い時間に届くなら買い付けたい」という大口のオファーが入ったためです。
私たちが栽培しているオイスターマッシュルームは、非常に足が速く、鮮度が命の繊細なプロダクトです。
朝収穫したものを、いかに早く現地へ届けるかというタイムリミットとの戦いがスタートしました。
大急ぎで14パックを収穫し、隣町ムミアスのバスステージへと駆け込みました。
しかし、ここから思いがけない壁にぶつかります。
何軒ものバス会社や乗合タクシーのオフィスを訪ねて交渉を重ねたものの、返ってくる答えはすべて首を横に振る「ノー」でした。
ケリチョへ直通するバス自体が存在せず、途中の乗り換え便での荷物輸送をお願いしても、ことごとく断られてしまいました。
約1時間、排気ガスが立ち込めるステージの中を聞き回りましたが、どうにもならない現実を前に、ついに配送を諦める決断を下しました。
手元に残された、14パックの完熟キノコ。
一緒になって焦っていた農家さんは、「ビジネスにはこういうロスや失敗も付き物だから」と、諦めを含んだため息混じりの言葉で私を諭してくれました。しかし、早朝から動いていただけに、やるせなさと強い落胆が押し寄せ、一気にテンションが急降下してしまいました。

企画書による感情のリセットと、10月への視線
このままドロドロとした不快感を引きずったまま現場に立っても、良いパフォーマンスは出せません。
一旦、我が家に帰り、机に向かうことにしました。
頭を切り替えるために取り組んだのは、今10月開催を目指して構想を練っている「ファーマーズマーケット」に向けた企画書の作成です。
PCを開き、キーボードを叩きながら、イベントの目的、ターゲット層、予算整理していく。
何かの作業に没頭し、思考をクリアにしていくプロセスは、私にとって最高の感情リセットになります。目の前のトラブルから一歩引き、10月という少し先の未来のワクワクする仕掛けに集中することで、乱れていた心が綺麗に凪いでいくのを感じました。
思考がすっかり整ったところで、配属先の農業事務所やパートナー農家さんにこのファーマーズマーケットの企画書を共有しました。
反応は、とてもポジティブなものでした。
強い関心を示してくれ、応援の言葉をもらうことができました。もちろん、これまでの経験上、彼らが自ら手足を動かして準備を手伝ってくれる期待はしていません。それでも、行政としての後ろ盾や相談窓口として機能してくれるだけでも、大きな前進です。
10月開催という明確なゴールに向けて、いよいよ具体的な交渉と準備を本格化させていこうと、気持ちが引き締まりました。
街頭営業での逆転完売と、アドレナリンの快感
頭も整理され、腹が括れたところで、午後は手元に残されたあの14パックのキノコを抱え、気を取り直して街へと営業に繰り出しました。
いつも買ってくれている顔馴染みの常連客。
まだ一度も声をかけたことのない、飛び込みの新規客。
一軒一軒、一人ひとりに声をかけ、プロダクトの新鮮さと価値を丁寧に伝えていきました。
結果、手元にあった14パックのキノコは、夕方までにすべてきれいに売り切ることができました。
朝の配送トラブルと途方に暮れた落胆からの、「全量完売」という逆転劇。
すべてのパックが手元から消え、現金へと変わったその瞬間、身体の奥底からドバッとアドレナリンが噴き出してくるのを感じました。
「気持ちいい……!」
冷ややかな拒絶や不条理なハプニングを、自分の足と手作業で力ずくで跳ね返し、価値に変えてみせた達成感。
この生々しい手触り感こそが、自分で商売を動かすことの何よりの醍醐味であり、病みつきになる面白さです。
朝のどん底から、最高の達成感へと振れ切った一日。
手の中に残った売上の重みと、10月への新しい目標を胸に抱きながら。
明日もまた、頑張ります。
