蕾の誕生と、あえて「表に出ない」交渉戦略
今日は丸一日、いちご農家さんのもとで、手作業に汗を流しながら今後の具体的な作戦についてディスカッションを重ねました。
前回訪れた際、土壌が乾燥してカチカチに硬くなってしまっているのが気になっていました。そこで今回は、土に堆肥をたっぷりと混ぜ込んでもらって土壌を柔らかくほぐし、その上から乾燥を防ぐために、枯れ草を使ってマルチを敷き詰めました。
地道に土を耕し、中腰での作業を続ける畑仕事は、やはり想像以上に体力を削られます。それでも、株をよく観察してみると、可愛らしい小さな蕾と白い花がいくつもでき始めていました。
近いうちに、マトゥング産のいちごを収穫できるかもしれないと思うと、疲れも吹き飛ぶような嬉しさが込み上げてきます。
作業の合間、これからの強い直射日光からいちごを守るための、遮光ネットの建設について話し合いました。
建設は現地の人を雇ってお願いする予定なのですが、同僚からある作戦を提示されました。
「この遮光ネットの建設が終わるまで、トムは取り仕切る業者と絶対に直接顔を合わせないで。君の存在は完全に伏せておこう」
理由は明快です。 私のような外国人(ムズング)が交渉の表舞台に出てしまうと、現地の人々から「お金をたくさん持っている」と思われ、資材や人工の価格交渉で足元を見られ、不当に価格を吊り上げられてしまうリスクがあるからです。
「私が表に出ない」という作戦。 現地の力学や商習慣を熟知している同僚だからこその、スマートで合理的な配慮です。彼女に託し、交渉の行方を見守ろうと思います。
「私が不要になる」ためのロードマップと、遅延への抗い
一方で、予定していたキノコの単独展示会については、一旦スケジュールをお預けにすることにしました。
だからといって、活動を後ろ倒しにして諦めるわけではありません。
作戦を切り替え、このいちご農家さんの一画をお借りして、いちごもキノコもまとめて一緒に実演・アピールできる複合型のデモ・展示プロットを立ち上げよう、という話でまとまりました。
9〜10月、遅くとも年内には絶対にやる。
ケニアで活動していると、あらゆる計画やスケジュールが、現地のゆるやかな時間の流れの中でズルズルと後倒しになりがちです。 それを防ぐためには、「まずは決めたことをやり切る」こと、そして相手を責めるのではなく「適切なタイミングで、しつこいくらいにリマインドを徹底する」という地道な管理が必要不可欠です。この1年半の任期を逆算しながら、ここからはタイムマネジメントのギアをもう一段上げていきます。
これからの普及のアプローチとして、年内はあえて多くの農家に手を広げず、現在関わっている少数の優秀なパイロット農家だけに100%フォーカスします。彼らとともに、完璧な「栽培マニュアル」と「確実な販売ルート」を完全に確立させる。
そして年明け頃から、彼らの成功の事実をひっさげて、興味を持った複数の農家グループへアプローチしていく。
きっと年内には、同僚や今関わっているパートナー農家さんの中にしっかりとした実践知とノウハウが蓄積されているでしょう。新しい農家への指導は彼ら自身の力だけで完結できるようになる点です。
そうなったとき、私はもうこのマトゥングのプロジェクトに直接関与する必要はなくなります。
私という存在が不要になるはず。
ボランティアが去った後も活動が持続するための理想的なデザインです。
自分が不要になったら、私はまた別の、誰も手をつけられていない新しい「面白い仕掛け」をゼロから立ち上げにいけたらと思います。
アフリカサッカーの胎動と、アメリカの「もしも」
夜は、サッカーのイングランド代表とDRコンゴ代表の試合を観戦しました。
結果は、イングランドのエースが意地の2発を沈めて逆転勝利を収めましたが、美しいフットボールを展開していたのは、アフリカのDRコンゴの方でした。
近年、セネガルやコートジボワール、そして今回のDRコンゴも含めて、アフリカ勢のサッカースタイルの進化には目を見張るものがあります。 フランスやベルギーといったヨーロッパの強豪国を見渡しても、ピッチで圧倒的な輝きを放っているのはアフリカルーツの選手たちが多い。
そこには、黒人選手が持っている天性のしなやかな身体能力(DNA)の高さはもちろん、這い上がろうとする強烈なハングリー精神が存在しています。さらに、ケニアでもそうであるように、今やアフリカのどんな田舎であっても、世界最高峰の欧州サッカーを日常的に観られる環境が整っていることも、彼らの戦術的なインテリジェンスを引き上げています。
お世辞にも恵まれているとは言えない、凸凹で雑草だらけのボロボロの練習環境から、これほどハイクオリティなフットボールが生まれる。今後の世界のサッカーシーンは、欧州、南米の2強時代から、「アフリカ」が第3の巨大な極として台頭してくるかもしれません。
同じアジア人として、日本やアジア勢も彼らのスピードに決して置いていかれてほしくないと強く願う一方で、アジアや北米におけるサッカーが強くなる難しさを考えていました。
おそらく、「スポーツの競技分散」というカルチャーの違いがあると思っています。
アメリカを例にとれば、もし彼らが持っているアメフト(NFL)、バスケ(NBA)、野球(MLB)の規格外の身体能力モンスターたちをすべてサッカー(MLS)の一点に集中させたら、アメリカは一瞬にして世界一のサッカー大国になるでしょう。アジアや北米は、サッカー以外のプロスポーツの魅力や市場が大きすぎるがゆえに、人材が分散してしまう。
対して、アフリカの人々にとって、夢を掴むためのスポーツはほぼ「サッカー」の一択です。その熱源の集中こそが、アフリカサッカーの強さの源泉なのかもしれません。
アフリカここから本当の意味で世界を席巻する最後に必要となるパズルのピースは、おそらく「国内リーグのプロ化と産業としての成熟」です。 優れた才能が若いうちに安価で欧州に引き抜かれるだけの構造から脱却し、アフリカ国内のリーグがビジネスとして自立し、豊かになったとき。世界のフットボールのパワーバランスは完全に崩壊するでしょう。
いちごの畝を立てながら、世界のフットボールの未来に想いを馳せる。
明日からも、まずは自分のピッチであるマトゥングの畑で、「不要になるための仕組み作り」を愚直に進めていきます。
