【ケニア派遣163日目】パンガが左手に。一瞬の不注意と疲労が招いた大怪我、そして現地の草と塩の応急処置

マッシュルームプロジェクト2日目。同僚が目を見張るほどのやる気とリーダーシップで植菌作業を主導する中、実習生や農家との能力差を実感する163日目の記録。

同僚の驚くべき成長と、無菌の植菌作業

今日も、昨日に引き続きマッシュルーム栽培プロジェクトの仕込み作業に追われました。

朝、現場に集まって驚いたのは、同僚のの凄まじい熱量です。 今日はプロのトレーナーは来ず、次のプロセスに進む3週間後まで現れない予定でした。しかし、  同僚はまるで昨日学んだことを昨晩のうちに完璧に復習してきたかのように、知識を自分のものにしていました。

集まりの最初に昨日のおさらいを行ったのですが、彼女の口からスラスラと正確な説明が飛び出します。もはや彼女自身がトレーナーに見えるほど、現場を見事に仕切ってくれました。私は要所要所で少しサポートするだけで、十分に作業が回る状態でした。

一方で、大学生の実習生や農家の方々は、まだまだプロセスの理解が追いついていない様子でした。 昨日あれだけ一緒に手を動かしたのに、どうしてここまで差が出てしまうのか。個人のモチベーションや理解力の差を目の当たりにし、伝える難しさを感じます。ここは焦らず、根気強く何度も繰り返していくしかありません。

今日のメイン作業は、昨日ドラム缶で滅菌した培地の袋に、モンバサから届いた種菌を植え付けていく「植菌」です。 キノコ栽培において最も怖いのは、空気中の雑菌が混入してカビが繁殖するコンタミネーション(汚染)です。 そのため、ケニアの農村では滅多に見られない「アルコール消毒」と「マスク」を総動員し、可能な限りクリーンな環境を作って作業を進めました。ここでも同僚が抜群のリーダーシップを発揮し、手本を見せながら実習生たちに作業を任せていきます。

プロセス自体は、何の問題もなくスムーズに終えることができました。

夕方の悲劇、パンガが指に落ちた瞬間

その後も、足りない資材を調達したり、2回目の滅菌作業を行ったりと、慌ただしく動き回っていました。しかし、夕方。悲劇が起こりました。

培地の材料にするために、枯れたバナナの葉っぱをナタ(パンガ)で細かく刻む作業をしていた時のことです。

ここ数日、インフラのストレスや連日の力仕事で、身体には相当な疲労が溜まっていました。さらに作業中、近所のちびっ子から話しかけられ、集中力は完全に削がれていました。

パンガを力強く振り下ろした、その瞬間。
手元が狂い、葉っぱを押さえていた左手の親指めがけて、鈍い刃が落ちました。

ばっくりと、皮膚が割れました。 指自体は繋がっていましたが、刃はかなり深く指に食い込んでいました。 心臓の鼓動に合わせて、親指から血がドバドバと溢れ出てきます。激しい痛みが襲ってきました。

疲労しているタイミングで、刃物のような危険な道具を絶対に使うべきではない

そんな簡単な安全管理の常識が、頭から抜け落ちていました。
自分の軽率な行動に対する後悔が、頭の中を駆け巡ります。

現地流の消毒と、救急病院での止血

怪我を見た近所の人たちが、すぐに「待ってろ!」と、よく分からない草をむしり取り、塩と一緒に持ってきてくれました。 水で傷口を洗い流しながら、その草をすり潰したものを傷口に塗りつけます。これが現地の伝統的な応急処置なのだそうです。強烈にしみましたが、彼らの必死の優しさが伝わってきました。

しかし、伝統的な方法でも血は一向に止まりません。
傷口を強く圧迫したまま、急いで近くの病院へと向かいました。

診断の結果、幸いにも骨までは達しておらず、縫合をする必要はないとのことでした。 徹底的な消毒と強力な圧迫止血が行われました。病院に着いてからも、実に2〜3時間ほどは血が流れ続け、じんわりとした痛みに耐える時間が続きました。また、土にまみれた道具による怪我だったため、破傷風の予防注射もその場で打ってもらいました。

パニックになりそうな状況でしたが、JICAの医療スタッフにすぐに連絡を入れて迅速に相談に乗ってもらい、病院の医師も的確に対応してくれました。さらに、怪我を聞きつけた同僚からは、心配そうな声で電話がかかってきました。

自分の不注意が引き起こした事故でしたが、周囲の人々の圧倒的な親切さに、心から救われました。

痛み止めと抗生物質を処方してもらい、ようやく帰宅しました。
JICA医療スタッフの指示に従い、当面の間は無理をせず、傷口を濡らさないように安静にします。

弱った心と、ポッドキャストの救い

夜は、約2週間ぶりとなるポッドキャストの収録が予定されていました。
自分のバカさ加減による失敗と、指のズキズキとした痛みで、メンタルはかなり落ち込んでいました。

しかし、画面の向こうの友人と繋がり、他愛のない話を始めると、不思議と心が軽くなっていくのが分かりました。声を放り出すうちに、凝り固まっていた緊張がほどけていきました。

こんな時だからこそ、日本語で、本音を語り合える友人の存在が身に染みます。
メンタルの健康を保つことの重要性を、改めて痛感しました。

栽培プロジェクトは良いスタートを切りましたが、私自身は少しの間、ブレーキを踏まざるを得なくなりました。これもケニアがくれた、大切な学びの機会だと思うことにします。 しばらくは左手を労わりながら、自分の頭を整理する時間に充てようと思います。