標高2,200mの洗礼と、スポンジのような子どもたち
今日は、先輩隊員がヘッドコーチを務める「Bondeni FC」という地元サッカーチームの練習に参加させてもらいました。私にとっては約2〜3年ぶりの本格的なサッカーです。
ここはエルドレット。標高およそ2,200m、富士山の5合目とほぼ同じ高さです。 練習開始時間に行きましたが、グラウンドにいたのは臨時キャプテンのセンターバック(ファン・ダイクみたいな雰囲気で超カッコいい)たった1人。 全員が集まったのは30分後でした。社会人なので仕事の都合もあるでしょうが、時間を守らない大人のルーズさはケニアあるあるです。 一方で、U-17(17歳以下)の子どもたちは時間通りに集合していました。
到着早々、U-17の選手の一人に「中国語風のイントネーション」でからかわれるという洗礼を受けました。しかし、すかさず先輩コーチが彼を猛烈に叱責すると、彼は深く反省した様子を見せました。 子どもは本当に素直です。街中にいる「恥ずかしい行動をする大人たち」を見てスポンジのように悪習を吸収してしまう側面もありますが、近くに「正しい大人」がいれば、真っ直ぐないい子に育つのだと実感した出来事でした。

圧倒的な「バネ」と、血の味がするポゼッション
練習はウォーミングアップから始まります。ピッチを周回しながらストレッチをし、マーカーを使ってステップを踏む。 ここで、いきなり圧倒されました。
みんなの「バネ」が凄すぎる。ジャンプの高さ、切り返しの鋭さ。常人離れした身体能力の高さを見せつけられ、自分の跳躍の低さに恥ずかしさすら覚えました。
しかし、その後の「パス&コントロール」の練習になると、少し複雑なメニューに対する理解度や技術の低さが顕著に現れました。何度も同じミスを繰り返す選手を見て、「小さい頃から細かい基礎技術を反復しているかどうか」の差がここに出るのだと思いました。
そして次に行われた「ポゼッション練習」。これが死ぬほどキツかった。 5分間で、中2vs2+フリーマン2人というメニュー。 最初の2〜3分はなんとかなりましたが、残り2分は一歩も動けなくなりました。喉の奥から、久しぶりに「血の味」がしました。 高地2,200mでのインテンシティの高い練習は、もはやサッカーではなく過酷なランメニューです。コーチが鬼に見えました(笑)。
最後はフルコートでのゲーム。 前日の雨でピッチはべちゃべちゃ。何度も足を滑らせて転び、ブランクもあって思うようなプレーはできませんでしたが、とても楽しかったです。 細かい戦術は決して良くありませんが、一人ひとりのポテンシャルは計り知れません。 先輩隊員が「ケニアで『ブルーロック(※エゴイストFW育成漫画)』プロジェクトをやりたい」と言っていた理由がよく分かります。彼らが正しいサッカーを学び、「再現性(戦術的思考)」を手に入れたら、とんでもない化け物チームになるはずです。

プロリーグの厳しい現実と、U-17の熱い円陣
とはいえ、ケニアサッカー界の現実はシビアです。ケニアのプロ1部リーグ(KPL)の月収レンジは3万〜30万シリング。トップ・オブ・トップでようやく30万円、多くの選手は3万〜5万円(約3万〜5万円)程度だそうです。
正直、これでは「プロになる夢」を描くのは難しい。社会人チームは日本よりもたくさんあるので、「仕事で日銭を稼ぎながら、週末は社会人チームで楽しくボールを蹴る」。そういう思考に落ち着くのは、現実問題として当たり前だよなと痛感しました。
しかし、U-17チームのゲームに入った際、試合前の円陣で選手が放った言葉に、私は強く感動しました。
「相手(トップチーム)にはテクニックや身体の大きさでは劣るかもしれない。でも、メンタリティでは絶対に負けてはいけない。トランジション(攻守の切り替え)を早くする。守備をサボらない。そういうことは俺たちにもできる。これはコーチに自分たちの改善を見せるチャンスだ。絶対勝とう」
夢やお金のためだけではなく、スポーツを通して「生きる姿勢」を学ぶ。
コーチの熱い想いと哲学が、子どもたちの心にしっかりと伝播しているのを感じました。

トップチームの選手の指導はとても上手でした。
言語という最強の武器と、異文化マネジメント
先輩隊員のすごさは、ピッチの上だけではありません。もちろん言語は一要素に過ぎないかもしれませんが、それでも彼らが話す言葉(ここではスワヒリ語)を完璧に使いこなすことが、いかに「心理的な壁を壊す最強の武器」になるかを目の当たりにしました。
夕方、訪れたお店でのこと。先輩が店員さんとスワヒリ語で信じられないくらい打ち解けて話し始めると、裏から次々とスタッフが出てきて、気づけば10人ほどの人だかりができて大爆笑が起きていました。こんなにケニア人を心の底から笑わせている日本人を、私は初めて見ました。
チームのマネジメントも秀逸です。 選手の評価を細かい指標で可視化するシートを作成し、コミュニケーションを仕組み化している。一方で、ケニア人特有の「言い訳」が始まったら、話を遮り、他者を巻き込ませないように厳しく威厳を保つ。これは、そのまま私の農業支援に横展開できるわけではありませんが、「異文化の中でのマネジメント」として抽象化すると、学ぶことしかありません。

大統領の母校と、大都市のマーケティング
帰り際、チームが借りている学校の敷地内にある農園を見学しました。 コーヒー、野菜、フルーツなど多様な作物を育て、自家製の良質な牛糞堆肥を作り、なんと立派なビニールハウスやスプリンクラーの灌漑設備までありました。
「なぜ学校の農園にこんな資金があるんだ?」と思いましたが、看板を見て納得。現大統領のルト氏からの支援が入っていました。実はこの高校、ルト大統領の出身校なのです。財閥の世襲ではなく、自らの力で成り上がった大統領。ここエルドレットには、今でも彼の強固な支持基盤と足跡が残っていました。

夜は、先輩と超本格的なインドカレー屋さんへ。日本でもこんなに美味しいカレーにはなかなか出会えないレベルです。さすが、インド系住民がたくさんいる大都市。 帰り道に立ち寄ったフルーツ屋や植物屋も圧倒的な品揃えでした。

しかし、この巨大都市エルドレットで「何かを卸す」ビジネスをするなら、スーパーの場所や規模感によって顧客層が全く異なるため、緻密なターゲティングが必要不可欠です。 カカメガのような地方都市とは違う、大都市ならではのマーケティングの難しさと面白さを噛み締めながら、エルドレットの夜が更けていきます。



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