ケニア奥地に残る「日本人」の足跡
今日はカカメガ郡の中にある「イコロマニ」という地域へ。
同期隊員が活動している任地の農家を訪問させてもらいました。
畑に向かう奥地の道中、風景に不釣り合いなほど立派な「大きなソーラーパネル」を見つけました。 「なぜこんな場所に?」と思っていると、後に農家の方が教えてくれました。なんと、日本の京都大学の教授が地域の水確保のために設置してくれたものだそうです。 周囲の住民からは今でも深く感謝されているとのこと。先日参加したJICA60周年式典で感じた「草の根の繋がり」を、こんなリアルな現場で目の当たりにするとは。先人たちの偉大な足跡に背筋が伸びる思いでした。

イコロマニの起業家「Recoup Farm」
到着した農家には「Reco Farm」という立派な看板が掲げられていました。 オーナーのエリック(Eric)さんに名前の由来を聞くと、「Eric EnterprisesやEricson Farmで登記しようとしたら既に使われていて、自分の名前のアルファベットを入れ替えて『Reco』にしたんだ」と笑って教えてくれました。

ここでは「きのこ(現在はオイスターマッシュルーム=ヒラタケ)」がメインで栽培されています。 彼は日本にたくさんの友人がおり、彼らから送られてくる情報や励ましを受け、現在、「しいたけ」などの高級品種にも挑戦しようとしています。
マッシュルーム栽培、緻密な4つのフェーズ
彼の栽培方法は非常に緻密で、大きく4つのフェーズに分かれていました。
専門用語も独特で面白いです。
1. 培地づくり(Substrate Preparation)
おがくず、トウモロコシの茎、バナナの葉や小麦の藁などの農業残渣を混ぜ、21日以上かけて発酵させます。その後、pH調整のために石灰を混ぜ、ウガンダから輸入した専用の袋に詰めます。 彼がこだわるのは「完全オーガニックの滅菌」。薬品を使わず、火で蒸すことでバクテリアを死滅させます。使い終わった培地は堆肥として畑に還す、完璧な循環型農業です。


2. 菌の植え付けと培養(Spooning & Incubation)
キノコ栽培では種を植えることをPlantingではなく「Spooning」と呼びます。現在の最大のビジネス課題がここです。彼は菌を自前で作れず、ナイロビやカカメガタウン(1箇所のみ)から買っていますが、供給が不安定な上、なんと「コストの半分」が菌の購入費。ここを内製化することが目下の目標です。菌を植えた袋は、「25〜27度の暖かく暗い部屋」で3〜4週間保管します。すると菌糸が広がり、袋全体が真っ白になります(Colonization)。


環境に合ったものを育てるのがやっぱり一番だよな…
3. 子実体の発生(Pinning to Fruiting)
菌が回ったら、今度は「18度以下の涼しい部屋」へ移動します。 化学物質を含まない新鮮な雨水をスプレーし続けると、3〜4日でキノコの赤ちゃんが顔を出します。他の植物でいう発芽(Germination)にあたるこの現象を「Pinning」と呼びます。驚くべきことに、Pinningからわずか3日で収穫可能なサイズにまで急成長します。室温を下げるため、床に炭(Charcoal)を敷き詰め、屋根にインドから輸入した断熱ペーパーを張るなど、環境制御に並々ならぬ工夫を凝らしていました。

4. 収穫と販売、そしてジレンマ
収穫は気温の低い早朝に行います。主な販売先はキスム。キノコを好むアジア系住民が多いからです。 フレッシュは卸値150シリング(小売300シリング)。乾燥キノコは100gで250シリングで売ります。しかし、ここに利益率のジレンマがありました。「生で10kgあったキノコが、天日干しで乾燥させると1kgになってしまう」のです。単価を上げたくても、市場が受け入れない。天候に左右される天日干しの難しさも相まって、一次産品のまま売ることの限界を感じていました。

付加価値(Value Addition)の野望とヴィーガン市場
だからこそ、彼は「付加価値(Value Addition)」に並々ならぬ情熱を注いでいます。 政府の産業技術研究所(KIRDI)のサポートを受けながら、以下のような商品開発を構想していました。
- マッシュルーム・パウダー:スープやソースの素として。
- マッシュルーム・クリスプス:日本の友人が送ってくれた「サツマイモチップス」から着想を得た、キノコのスナック菓子。
- マッシュルーム・ソーセージ:肉を一切使わない、100%キノコのソーセージ。
特にソーセージは秀逸なアイデアです。 ケニアには宗教的な理由(SDA教会など)から肉を食べない人が多く、ヴィーガン(完全菜食主義者)市場が確実に存在しています。単なる「美味しいキノコ」から「肉の代替タンパク質」へとポジショニングを変える。唯一の課題は「どうやって肉なしでソーセージの形に固めるか(繋ぎの技術)」だそうですが、この着眼点は見事としか言いようがありません。

「感情を込めたビジネスは、人を思いがけない高みへと連れて行ってくれる。」
彼は決してお金持ちになりたいわけではない。隣人の幸福を願っている。
しかし、ビジネスへの解像度は極めて高い。とても地に足のついた魅力的な方でした。
大雨の足止めと、多視点の夜
視察を終え、一旦お茶を飲んでいると、外は土砂降りの大雨に。
とても帰れる状況ではなくなり、急遽、同期の家に泊めてもらうことになりました。
夜は、同期隊員の同僚の先生やその姪っ子さんも交えて、色々な会話を楽しみました。 一人で考えていると行き詰まる活動のアイデアも、現地の先生や同期といった「異なる視点(多視点)」が入ることで、パズルのピースがカチッとはまるように形になっていきます。自分以外の脳みそを借りることの重要性を痛感しました。
そして夕食は、振る舞ってくれた美味しい日本食。
本当に日本食って美味しすぎる。
エリックさんのサステナブルな情熱と、温かい日本食。心も舌も、最高に幸せな1日でした。



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