【ケニア派遣80日目】過酷な最低賃金と、5つの国際認証を持つ紅茶工場。ケリチョで見た産業の光と影

JICA海外協力隊
JICA海外協力隊ケニア派遣遠征

「見えない最低賃金」と街のリアル

ケリチョ遠征の2日目です。

朝から街を歩き回り、現地の人たちと話しました。新聞スタンドの周りに集まり一面を立ち読みするおじさんたちや、朝から靴をピカピカに磨き上げるおじさんたち。政治への関心の高さや身だしなみへのこだわりは、日本人よりも遥かに強いように感じます。

靴を磨く人たち。

何人かに、境遇や給料についてのリアルな話を聞きました。 ローカルのスーパーで働く方の話は衝撃的でした。

1日12時間労働(朝7時〜夜7時)。休みなしの週7日勤務。 それでいて、月給は6000シリング(約6000円)。日給に換算するとわずか200シリング程度です。 他の方にも話を聞きましたが、「1日350シリングもらえれば良い方だ」と言います。 お金がなく、大学も中退せざるを得なかったそうです。 Naivas(大手スーパー)などの大企業ならちゃんとしたシフト(7時〜14時など)があるようですが、ローカル企業には労災基準も労働基準もあってないようなものです。

【調査】ケニアの最低賃金と労働環境 ケニアには労働法で定められた「法定最低賃金」が存在します。都市部と農村部、業種によって異なりますが、都市部の一般労働者で月額15,000〜20,000シリング程度に設定されています。 しかし、これはあくまで「フォーマルセクター(正規雇用)」の話。街角の食堂やインフォーマルセクターでは、法定基準を大きく下回る賃金と過酷な長時間労働が常態化しており、法が末端まで機能していないのが現実です。

新聞に群がる人たち。ちなみに、購入している人はいませんでした。

イチゴの「贅沢需要」と販路のリアル

また、スーパーの青果担当者にイチゴの売れ行きについてもヒアリングしました。

価格は1パック299シリング。 普段の日は0〜2パック程度しか動きませんが、月末の給料日後や、今のようなハーフターム(学校の休み)の時期になると、1日に10〜20パックも飛ぶように売れるそうです。 彼ら曰く、イチゴは「子供の贅沢需要」に刺さるアイテム。だからこそ、Naivas、Quickmart、Foodplusのような「その値段に手を出せる中間層〜富裕層の親」が来る大手スーパーに置かないと、絶対に売れないというリアルな話を聞けました。非常に面白いインサイトです。

エスカレータ付きスーパー。お金あるんだな。|このあたりで有名なローカルスーパー Kipchmatt

ワンオペ農家と「花芽分化」の壁

午前中は、イチゴを栽培している農家を訪問しました。
ご主人は現在イギリスへ半年間のベリー研修に行っているそうで、奥さんがワンオペで子育てと畑の管理をしていました。(ご主人が帰ってきたら、改めて話してみたい!)

大きなビニールハウス、灌漑設備、液肥のシステム。設備は完璧に整っていました。
標高が高いケリチョならではの冷涼な気候のおかげで、病害虫の被害も少ないようです。環境が違いすぎてマトゥングにそのまま適用するのは難しそうですが、液肥の頻度や栄養管理のノウハウは非常に勉強になりました。

ただ一つ気になったのが、「定植から3ヶ月経っても、フルーツがほとんど結実していない」株が多かったことです。株は青々と茂り、ランナー(蔓)が大量に伸びていました。

【考察】イチゴの花芽分化と「スパルタ管理」 聞けば、現地で使用されている肥料は窒素成分が非常に高いもの(Mavuno N:P:K = 25:5:5)で、さらに液肥を高頻度で与え続けていました。 つまり、高窒素と豊富な水分により、株が完全に「栄養成長(葉や茎を伸ばすモード)」に傾き、「生殖成長(花・実をつけるモード)」へ移行する花芽分化のスイッチが入っていなかったのです(おそらく)。

マトゥングでは収穫期に向けて以下の「スパルタ管理」を導入してみようと思います。

  1. ランナーの徹底切除
  2. 窒素肥料の停止(リン・カリ主体への切り替え)
  3. 葉の摘み取りによるクラウンへの温度ショック(夜風を当てる)
  4. 意図的な乾燥ショックを実施し、強制的に花芽を誘発させる

100年企業の紅茶工場と、外国人の「カード」

午後は、メインイベントである紅茶工場の見学へ。 足を踏み入れた瞬間、言葉を失いました。

赤・青・黄色のマークごとに、手積み、機械、オーガニックなどで分類されています。

機械があまりに巨大で、24時間稼働のオートメーションラインが絶え間なく動いています。 工場内には一般労働者だけでも400人以上、管理職を含めると約500人規模のスタッフがおり、衛生管理や作業動線が徹底されていました。 驚いたのは、この工場がFSSC22000(食品安全)やレインフォレスト・アライアンス、フェアトレード、オーガニックなど5つもの国際認証を取得し、厳しい外部監査をクリアしていることです。また、自社農園の茶葉だけでなく、周辺の契約農家の茶葉も買い取って加工し、地域経済を力強く回しています。

お茶作りにおいて彼らが最もこだわっていたのが「萎凋(いちょう:Withering)」の工程でした。 単に水分を78%から68%へ減らす「物理的萎凋」だけでなく、葉の内部で酵素反応を起こす「化学的萎凋(Chemical Withering)」に8時間もかけ、あの深い味わいと香りを引き出しているのだと教えてもらいました。水分管理、発酵、粉砕、脱水を経てパッキングされ、モンバサのオークションへと運ばれていく。その生産量はなんと1日100トン。 植民地時代(1929年創業)からの歴史があるとはいえ、「これが真の”産業”というものか」と、ただただ圧倒されました。

1日3回。この大きなトラックで運ばれていきます。

驚くべきは、今日案内してくださった先輩隊員が、この「巨大工場の工場長と友達」だったことです。 聞けば、友達が友達を繋ぎ、気づいたらそうなっていたとのこと。 「協力隊や外国人という立場(カード)は、有効に使った方がいい。ある意味で部外者だからこそ、しがらみなく繋がれるものもある」 この教えは、拠点を増やしていく3月の活動で、絶対に意識すべきマインドセットだと感じました。

カレーとSwitch。長距離走の休息

夜は、別の先輩隊員の家にお邪魔し、日本のカレールーとコシヒカリで作られた最高の「カレーライス」をご馳走になりました。 さらに、任天堂Switchで遊び倒し、久しぶりに活動のことを完全に忘れて大笑いしました。

全力疾走できる期間が約70日だと気づいたばかりの私にとって、こうした「完全なオフ」の時間は、2年間という長距離走を走り抜くために絶対に不可欠なものです。 地域の解像度を上げ、要人と繋がり、後輩を全力でもてなしてくれる。先輩隊員たちの凄さと優しさに触れた、大感謝の1日でした。

スーパーへ買い出しに行った時の一コマ。
どこの地域でもスーパーの前はフルーツを売る人とバイクタクシーがずらりと並んでいます。

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