【移動編】真っ暗闇の出発と、8時間の道のり
今日から、別の任地で活動する先輩隊員を訪ねるため、ケニア西部のお茶の産地・ケリチョへ向かいます。
朝4時半に起床。昨日からずっと停電中で、真っ暗闇の中、ランタンの光だけを頼りに探り探りで準備を進めます。 6時少し前、家を出発。外は街に一つだけある街灯と、月の光のみ。

「こんな時間にマタツ(乗合バス)は来るのだろうか……」 不安でしたが、運良く5分ほどで捕まえることができ、隣町のバスターミナルへ。 「6時半に出発するバスがある」と聞いていたので、6時15分に到着。実際に出発したのは7時過ぎでしたが、ケニア基準では「悪くない」誤差です。 利用したのはブンゴマラインというSacco(組合)。キスムまで直行で、全くポレポレ(ゆっくり)ではありませんでした。ありがたい!

助手席からの風景と気圧の変化
8時半頃、順調に中継地のキスムに到着。しかし、ここからが長かった。本日の目的地であるケリチョ行きのバスが、待てど暮らせど人数が揃いません。結局約3時間待ち、11時半頃にようやく出発しました。
スマホの充電が切れてしまい、やることもなかったので、助手席に座ってずっと窓の外の風景を眺めていました。キスムを過ぎると明らかに水が豊富になり、水田のような景色も現れます。そしてケリチョが近づくにつれ、標高が上がり、耳が気圧の変化を感じ始めます。

次第に、視界の左右に美しい茶畑が増えてきました。 14時。移動時間8時間を経て、目的地のケリチョカウンティ、リテイン(Litein)という街に到着しました。

【視察編】冷涼な茶産地・リテインへ
バスを降りて最初に感じたのは、「涼しい!」ということ。 昼間にも関わらず、気温は20度くらい。マトゥングの酷暑とは打って変わり、長袖が必須の気候です。
ここからは、リテインで1年半活動されている先輩隊員に案内していただきました。

ブルーベリーの壁と、多角化する農家
まずは、ケニアに来てからずっと気になっていたブルーベリー栽培の現場へ。お茶が育つ酸性土壌と冷涼な気候は、ブルーベリーに適しています。しかし、現在1年目の農家さんは、最近の雹被害や生育不良など、試行錯誤の連続のようでした。水分量の調節が極めて難しく、収穫まで2年待つキャッシュフローの課題もあります。 「気候が適しているケリチョでもこれだけ難しいなら、カカメガでやるのはだいぶハードルが高いな」と痛感しました。それでも、苗の購入先など有益な情報をたくさん教えていただき、大きな収穫です。

ケリチョは、どこまでも茶畑が広がるお茶の街です。 ほとんどのお茶はKTDA(ケニア紅茶開発局)に卸され、農家は月額で最低限の収入を得ています。 しかし近年は価格が下落しており、労働ストライキも起きているとのこと。
【調査】KTDA(Kenya Tea Development Agency) 小規模茶農家を束ねる巨大な組織。ケニアのお茶産業の基盤ですが、価格変動リスクを避けるため、直接輸出会社に売ったり、お茶の栽培から切り替えたりする農家も出始めているようです。
そんな状況下で、今日訪れた農家や起業家たちは果敢に様々なことに挑戦をしていました。 アボカド(巨大化を防ぐため接ぎ木)、パッションフルーツ(キャッシュフローが早い)、バターナッツ(1エーカーでミリオン稼げるが種が手に入りにくい)など。 単価が高いものや収益化が早いものを複数栽培し、「多動エンジン」で農地を有効活用しています。

大統領賞の起業家と「リーバイス戦略」
特に印象的だったのが、昨年の年間アワード農業部門で大統領賞を受賞したという女性起業家の農園です。 従業員を10人雇用し、施設をどんどん拡大している彼女のメイン事業は「苗の販売」でした。
この辺りでは、キャベツやケールなどの葉物野菜において「種」ではなく「苗」を買うのが主流のようです。定植前のデリケートな時期を露地で管理するのが難しいため、プロが育てた苗を買うニーズが高いのです。 ゴールドラッシュで金(作物)を掘るのではなく、ツルハシやジーンズ(苗)を売って儲ける。まさに「リーバイス戦略」。見事なビジネスモデルです。

900人のWhatsApp互助会
さらに驚いたのが、農家同士のネットワークです。
民間主導で作られたWhatsAppのコミュニティグループには、約900人もの農家が参加していました。
そこでは苗や種子の売買が行われ、病害虫の情報共有、さらには定期的な勉強会まで開催されています。主催者も、参加している農家も、モチベーションが桁違いに高い。 これはまさに「コミュニティ開発」の真骨頂です。 アレンジ次第で横展開できるはず。マトゥングに戻ったら、農家グループや事務所メンバーと協力して、この熱狂の仕組みを形にしたいと強く思いました。

炭入り発酵乳と、先輩の背中
また、ケリチョ周辺に住むカレンジン族には、伝統的な乳牛文化があります。 ホルスタインが放牧され、酪農のSACCO(協同組合)が付加価値づけに取り組んでいます。
その一つが「ムルシク(Mursik)」。牛乳に特定の炭を混ぜて発酵させた伝統飲料です。 飲ませてもらうと、ヨーグルトのような感じですが、甘さよりも強い酸味が目立ちます。美味しい。これもまた、気候と文化が生んだ見事な加工品です。

移動時間が長引き、見て回れたのは短い時間でしたが、先輩隊員が完璧なアレンジをしてくださり、圧倒的に充実した時間になりました。
「1年半で、ここまで地域の解像度を上げて、人を案内できるのか」 先輩の背中を見て、素直にそう思いました。 私もマトゥングで、そんな風に地域を語り、人を繋げるようになりたい。 涼しいケリチョの風に吹かれながら、気合を入れ直した1日目でした。



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