50日目の節目と、居場所の喪失感
早いもので、ケニアに来てから50日が経過しました。
アフリカの時間の流れは、日本にいた頃よりもずっとゆっくりです。それでも、早い。
ふと二本松訓練所のFacebookを開くと、次の隊次のメンバーが訓練を受けている様子が上がっていました。 ついこの間まで、私たちが汗を流していたあの場所。 「私たちの場所」だと思っていたあそこは、もう次の人たちの場所になっている。 前に進んでいる証拠ですが、少しの寂しさを感じずにはいられません。
「協力隊は何の役に立つのか?」という問い
青年海外協力隊(JOCV)事業は年々応募人数が減り、最近では批判的な声も多く聞かれます。 メディアに取り上げられれば、コメント欄が荒れることもしばしば。「税金の無駄遣い」「ただの思い出作り」──。
実際、それらの批判に対して、胸を張って全否定できない自分がいます。
結局、国益になっているのか? そもそも途上国のためになっているのか?
その問いの矛先は、自分自身にも向かいます。 「世界を変える」とか「ケニアを変える」とか、あるいは「日本に貢献する」とか。 そんな大きな主語に対して、自分がインパクトを与えられるとは正直思えません。 私は「コミュニティ開発」という職種ですが、配属されたこのマトゥングという街全体にさえ、爪痕を残すことは難しいでしょう。
投資対効果(ROI)があるかと問われたら、何で測るのかという議論はさておき、数字としてはだいぶ厳しい現実があると思います。 一人で過ごす時間が多いと、そんな弱気な思考のループに陥ることがあります。 「私は一体、何のためにここにいるんだろう」と。
半径5kmの「選択と集中」
でも、もう腹を括るしかありません。 世界や国なんて変えられない。
なら、まずは手の届く範囲でやるしかない。
今日、カウンターパート(現地の同僚)にこう告げました。
「5キロ範囲内ならどこまでも歩いていけるから、目ぼしい農家やグループ、4Kクラブを教えて欲しい」
国際協力という「誰も取り残さない」が求められる現場において、「選択と集中」が良いことなのかは分かりません。 でも、今の私にはそれが一番の戦略だと思うのです。 正直、この世界に正解なんてないし、見方によっては何をやっても不正解かもしれない。 だからこそ、「これだ」と割り切ってやってみて、ダメならやり直す。それくらいのマインドセットで動くことに決めました。
私の強引な依頼のおかげで、事務所の人たちが重い腰を上げてくれました。
多少迷惑をかけているかもしれませんが、最初はこれくらいでいいと自分に言い聞かせています。

ルンバの哲学と、プロフェッショナルの条件
紹介されて訪れたのは、近所で比較的大きな規模で農業をしている農家さん。
彼女の畑は、猿による獣害被害が深刻でした。またバナナの木も害虫にやられ、多くが枯れてしまっています。
鳥獣害対策については、熊本での経験や、マサイマラのワイルドライフベンチャーズ(Wildlife Ventures)の事例など、日本にいる頃から調べてきた分野です。「これなら、何か役に立てそうかもしれない」 と感じ、アイデアを共有しました。そして帰り際、彼女が言いました。

「知識は最大の武器なのよ」
農業においては、あらゆる不測の事態が起きます。 干ばつ、害虫、獣害、病気。そういう時に「知識」があるかどうかが、生存を分ける最強の武器になる。それこそが農家の仕事なのだと。
その言葉を聞いて、ふと「お掃除ロボットのルンバ」を思い出しました。
ルンバは、部屋に障害物があるからこそ「ルンバ」たり得ます。 もし部屋に何も障害物がなく、ただ真っ直ぐ進むだけでいいなら、あの高性能なセンサーもアルゴリズムも必要ありません。
農家も、いや農家に限らずあらゆる仕事も同じではないでしょうか。 平時をどのように過ごすかよりも、エラーが起きた時、うまくいかない時、障害物にぶつかった時。 その時どう動くかにこそ、その人の「職業的価値(プロフェッショナリズム)」が発揮される。
彼女の言葉と現状を見て、そう強く感じました。 これからも通い続けると約束し、その場を後にしました。 たくさん勉強して、まずは目の前の「一人」から。そこからしか活動は始まらないのです。

アフリカの「埼玉」と適応能力
帰り道、ふとすれ違った人が着ていたTシャツに目が釘付けになりました。
胸元に大きく書かれた「埼玉」の文字。
こんなケニアの田舎道で、埼玉に出会うとは。 興奮してカウンターパートに話しかけましたが、「そっか(苦笑)」という薄い反応。 温度差はありましたが、なんだか無性に嬉しくなりました。古着として海を渡ってきたそのTシャツもまた、ここで第二の人生(?)を適応して生きているのでしょう。
帰宅後は、バケツに水を溜めて体を洗うスタイル。 断水生活も板についてきて、もはやこのスタイルに心地よささえ感じてきました。 人間の「慣れる」「適応する」能力って本当にすごい。
迷いながら、適応しながら、埼玉に励まされながら。
明日もまた、半径5kmを歩こうと思います。



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