祭りのあとの静けさと、「ムレンベ」の魔法
任地訪問3日目。
昨日のマーケットの喧騒が嘘のように、今日の街は穏やかな空気に包まれていました。あの熱気は、週に一度だけの特別なものだったようです。
家の契約は、安全管理担当者の都合で見送りとなりました。来週からの本赴任は、しばらくホテル暮らしからのスタートになりそうです。早く落ち着ける場所が決まるといいのですが。
特段やることもなかったので、オフィスの周辺を歩いてみることにしました。
道ですれ違う人々と目が合えば、「Mulembe!(ムレンベ!=ルヤ語でこんにちは)」と声をかけます。たった一言、現地の言葉を発するだけで、相手の表情がパッと花開き、そこから会話が生まれる。この街には、嫌な顔をする人が本当に少ない。
「ここに住んで仕事をするんだ」と伝えると、誰もが「Welcome, Welcome!」と歓迎してくれます。もちろん、今はまだ珍しい「客人」扱いなのだと思います。時間が経てば関係性も変わるでしょうが、この温かい初手には心から感謝です。
「何をくれるんだ?」という、無邪気で残酷な問い
散策中、林業グループの人たちが、若い男性から年配の女性まで一緒になって土作業をしている姿を見かけました。林の中で裸足になり、鍬を振るう姿には生命力を感じます。
また、手作りの即席ボールを蹴って遊ぶ子供たち。そのボールのクオリティを上げられないか、古タイヤや動物の皮を使って丈夫なものが作れないか、そんなことを考えながら歩みを進めました。
しかし、街の人々との会話の中で、頻繁に投げかけられる質問があります。
「何を売っているんだ?」
「何をしてくれるんだ?」
「何をくれるんだ?」
悪気はないのでしょう。でも、そこには「外国人は何かを与えてくれる存在」という、支援慣れした意識が見え隠れします。この問いに、これからどう向き合い、どう答えていくか。私の活動の根幹に関わる課題だと感じました。

「ボカシ」を知る農家と、売るための壁
事務所に戻ると、一人の農家さんが来ていました。
彼は外国人の知人も多く、非常に挑戦的な農家さんでした。オーガニック農法やコンポストに取り組み、なんと「ボカシ(Bokashi)」という日本語まで知っていて、嬉しそうに話してくれました。農業への愛を感じる、面白い人です。
彼もまた、蜂蜜を作っていました。
しかし、悩みは「売り方」です。色々な作物を作ってはいるものの、戦略的なポートフォリオは組めておらず、販路に困っている様子。
事務所のスタッフからは「彼と相談してやってみたら?」と提案されましたが、正直、カカメガのスーパーを見ても蜂蜜は飽和状態です。単なる甘味料として戦うのは厳しい。
食文化が保守的で、毎日同じものを食べる習慣があるこの地域で、新しいものを売るハードルは日本とは比べ物になりません。消費者の財布の紐も固い。
でも、だからこそ頭の捻りがいがある。面白い。
バスの中の正義と、優しさ
午後は、別のサブカウンティで活動予定の同期の家探しをお手伝い。金が採れたり、闘牛があったりと魅力的な場所ですが、治安面では少しピリつく場面も。同期の女性が装飾品を触られヒヤッとするなど、やはり女性にとっては安全ではない瞬間があります。ひげ坊主の私は、今のところ安全そうですが(笑)。
その移動中のバスで、忘れられない出来事がありました。
運賃として50シリングのところを、倍の100シリング要求されたのです。相場を知らない私は「そんなものか」と払おうとしました。
その時、後ろにいたおばちゃんが声を上げてくれました。
「どこまで行くの?そこまでなら、そんなに高く払う必要ないよ!」
それでもお釣りを渋る乗務員に対し、彼女は言い放ちました。
「彼らにお釣りを返すまで、私は自分のお金を払わないからね」
その毅然とした態度と、見ず知らずの外国人を守ろうとしてくれる優しさに、胸が熱くなりました。なんて素敵な方なんだろう。この国には、こういう正義と優しさが、確かに存在しています。
違和感を、大切に抱きしめる
カカメガタウンに戻り、スーパーを歩いていると、アメリカ在住歴のある家族に話しかけられました。彼らの英語の聞き取りやすいこと!普段英語が聞き取りづらいのは、私の能力だけでなく、ケニア特有の訛りや癖のせいもあるのかもしれないと、少し救われた気分です。
「China? Korea? Japan?」
街ではこの順番で国籍を聞かれます。それが今のプレゼンスの序列なのでしょう。
今日一日でも、たくさんの「違和感」を感じました。
先輩隊員が言っていた「最初に感じた違和感は大切にすべき。慣れると気づけなくなるから」という言葉を思い出します。
慣れることは生存本能として大事ですが、「よそ者」としての視点がクリアな今のうちに、不思議に思うこと、違和感を覚えることを、しっかりとメモに残しておこうと思います。
優しさと、したたかさと、難しさと。
その全てをひっくるめて、この地での生活が面白くなってきました。


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