【ケニア派遣33日目】コーヒー農園で見つけた「実学」と「マンパワー」。ナイロビ近郊の農業事情。

JICA海外協力隊
JICA海外協力隊ケニア派遣ナイロビ研修

「コーヒーからコンクリートへ」変貌するナイロビ近郊

今日は、ナイロビ近郊にあるコーヒー農園「Guka’s Coffee」へ視察に行きました。

農園へ向かう道中、車窓から見える景色に少し違和感を覚えました。
かつては一面の畑だったであろう場所に、真新しい住宅や高い建物が次々と建ち並んでいます。

ネット上の調査によれば(話半分くらいに聞いてください)、現在ケニアの不動産市場は、単なる土地投機から資本集約的な開発へと構造が激変しているそうです。特にナイロビ近郊エリアでは、政治的な力を持つ財閥や巨大な金融資本が、かつての広大な農園を次々と衛星都市へと転換させています。 インフラ整備で地価が高騰し、「コーヒーを作るより、土地を売ってアパートを建てた方が儲かる」という圧倒的な経済合理性が、農地をコンクリートへと変えているそうです。

そんな都市化の濁流の中で、あえて祖父(Guka)が残した土地を守り、コーヒーを作り続ける。 今日の目的地は、そんな気概のある農園でした。

Seed to Cup:7時間の没頭

11時から18時まで、実に7時間。 種から芽が出て、3年以上かけて木になり、実を結び、精製(ミリング)、焙煎(ロースト)を経て、一杯のコーヒーになるまで。生産の「最上流」から消費の「最下流」まで、その全てを贅沢に体験させていただきました。

ケニアのコーヒー輸出額は、2025年のデータで前年比約38%増と回復基調にあります。
その牽引役となっているのが、徹底した「クオリティ」です。

ここでは、完熟した実だけを一粒一粒「手積み」します。化学肥料は使いません。
ウガンダのようにロブスタ種で量を追求するのではなく、あくまでアラビカ種で質を追求しています。ナイロビコーヒー取引所(NCE)でのオークションを通じて適正価格が決まる仕組みの中で、彼らは高付加価値な豆を作ることで生き残りを図っています

それは、3年前に訪れた別の農園でも感じた、ケニアのコーヒー農家共通のプライドなのかもしれません。

結構、害虫にやられている木がありました。
この木には鳥の巣が。虫や鳥などと共生しながら害虫対策は行なっているようです。

ブルーベリーとの共通点と、決定的な違い

日本でブルーベリー栽培を学んできた身として、コーヒーの木との共通点と相違点には興奮を隠せませんでした。

例えば、直射日光を避けるために「シェードツリー」を植える工夫や、古い枝を更新していく剪定の基本的な考え方は通じるものがあります。一方で、樹勢の強さや実のつき方、そして寒さへの耐性は全く異なります。 知っている知識と比較しながら見ることで、解像度がぐっと上がり、改めて農業の奥深さと面白さに触れた気がしました。

高さが出すぎないように頂点を止める(芯止め)。もちろん、死んだ枝も剪定していくそうです。
全部選定するのはきりがなさそうだけど、できるのかな本当に。

異端のガイドが語る、「実学」の重要性

今日、私を案内してくれたガイドの男性は、ただの農園スタッフではありませんでした。
彼はもともとマーケティングコンサルタントでしたが、数字を追うだけの日々に疑問を感じ、コロナ禍を機に大学へ入り直し、コーヒー科学(Coffee Science)を学んだという異色の経歴の持ち主です。

曰く、コーヒー科学を専攻した同級生はケニア全土でたったの15人ほど。超希少人材です。
彼は、ナイロビ大学などの公立校が教える「机上の空論」を痛烈に批判していました。
「社会の需給バランスを見ず、飽和している医者や看護師ばかり目指すから就職難民になる。私立大学のようにインターンを組み込み、今足りていない分野の『実学』を学べば、仕事はいくらでもある」と。

これは、完全に「マーケットイン」の考え方です。 日本がいまだに新卒一括採用をしている間に、ケニアでは欧米型のジョブ型雇用が進み、こうした高度な専門人材が生まれている。その事実に、ハッとさせられました。

何より、彼はコーヒーが大好きで大好きでたまらない様子で、何時間でも熱く語り続けていました。 好きなことに没頭する熱量と、それをビジネスに落とし込む冷静な視点。こういう大人が、この国の未来を作っていくのだと思います。

最高に楽しそうで、かっこいい方でした。

最高の一杯のために、舌に届く最後までこだわりぬく。ほとんど趣味みたいな仕事(笑)

国内市場への挑戦と、アグリツーリズム

この農園のもう一つの特徴は、「ローカルへの開放」です。 ケニアは紅茶文化が根強く、コーヒーはほとんどが輸出用か、ナイロビの富裕層向け。自分たちで作っているのに、その味を誰も知らない。そんな状況を変えるため、彼らは地元の人々に無料でコーヒーを提供し、文化の醸成を図っています。実際にどのくらいの方が来て、どのくらい浸透しているのかは不明ですが。

穏やかなピクニックエリアとカフェを併設。お茶とかカカオとかもみてみたいな。

また、農園内には美しいカフェや清潔なトイレ、ピクニックエリアが整備されていました。 工程が複雑で物語性のあるコーヒーは、観光との相性が抜群です。生産現場を見せ、その大変さとスタッフの情熱を伝えることで、「この価格でも買いたい」と思わせる。高単価商材を売るためのアグリツーリズム戦略が、そこには緻密に設計されていました。

綺麗なトイレ。トイレってすごい大事だよね。

「マンパワー」が生む、多様な雇用

また、現場を見て痛感したのは、「コーヒー作りは体力勝負」だということです。 有機栽培にこだわれば害虫との戦いも増えますし、収穫は全て手作業。収穫までは時間がかかる。生半可な覚悟ではできない重労働です。

だからこそ、ここには「雇用」が生まれます。 繁忙期に合わせて近隣の人々を雇うスタイルは、私が熊本で見た「特定地域づくり事業協同組合」のような、季節に合わせて労働力を融通し合う仕組みに通じるものがありました。

丁寧な手作業が求められるこの現場は、女性のエンパワーメントや、障がいを持つ方々の活躍の場としても大きな可能性を秘めていると感じます。 「マンパワーこそ最強」。ここで幸せそうに働く人々の笑顔を見て、そう確信しました。各作物の農家間で、組合化をするのも一つの手ではないかな、なんて妄想もしながら、、、

広大な農園の味をひとつづつ積んでいきます。広い。
これでも全部で200エーカー(東京ドーム17個くらい)ある農園のほとんどは、アボカドなどの別のプラントに変えたそう。全部コーヒーだった時の労働量やばそう。

世界を知ることで、ケニアを知る

寒暖差がもたらすケニア特有のコーヒーの酸味のように、脳がキュッと締まるような刺激的な一日でした。たくさんの情報を浴び、たくさんのことを妄想していました。

灌漑やカフェはソーラーパネルで。
日本でやるならシェードツリーをソーラーシェアリングで代替して、気温管理とかできそう?まあそんな簡単じゃないか。

ただ、今日感じた「ケニアコーヒーの素晴らしさ」は、あくまでケニアの中の話です。 量を重視するウガンダのロブスタ種、独特のフルーティーさを持つルワンダのコーヒー。それぞれの国には、それぞれの環境に適応した戦略と味があるはずです。 私はうっすらとした記憶の中で、ルワンダで飲んだコーヒーが一番好きだったことを覚えています。ケニアは自国のコーヒーに絶対の自信を持っていますが、味の好みは主観であり、ターゲットとする顧客も違うでしょう。

他の国が何にこだわり、逆にケニアに対して何を思っているのか。 一度外に出て、比較することで初めて見えてくる「ケニアの輪郭」があるはずです。 任期中に、ぜひ近隣諸国の農園も訪れてみたいとです。

Guka's Coffee
Guka's Coffee

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