【ケニア派遣25日目・後編】象を止める小さな戦士。蜂が作った「見えない柵」と、共生のリアル

JICA海外協力隊
JICA海外協力隊ケニア派遣ナイロビ研修

熊本から繋がる、伏線回収の旅

午後は、養蜂事業の視察へ。
ここは、私が熊本の「イノP」で鳥獣害対策について学んでいた頃、「ケニアでは一体どうしているんだろう?」と調べ、偶然見つけた会社でした。
あれから半年。ようやくその現場を訪れることができました。
まさに、自分の中の伏線を回収する旅です。

「守られる象」と「守られない人間」

ここマサイマラでは、象による獣害が深刻化しています。
畑が荒らされるだけでなく、時には人の命さえ奪われる。しかし、ここには残酷な現実があります。

国立公園のそばで動物は法によって手厚く保護されている一方で、被害を受ける住民への補償は十分ではありません。
「象は守られているのに、自分たち人間は守られない」。
そんな切実な声が響き、住民による報復行為も起きるなど、そこには人間と自然の悲しい「敵対」がありました。

象に荒らされた畑

電気柵が抱える、深刻なジレンマ

もちろん、既存の対策として「電気柵」も導入されています。
しかし、導入コストや停電の問題に加え、ある深刻なジレンマを抱えていました。

それは、「象に効く電気柵は、小動物には強すぎる」ということです。

象のような巨体を退けるほどの高電圧を流せば、触れた小動物の命を奪ってしまうことがある。かといって、小動物に安全なレベルに下げれば、今度は象には全く通用しない。
「象を止めるか、生態系を守るか」。この二律背反が、対策を難しくしていました。

象を止める、小さな戦士たち

そんな中、現地で第三の道、「共生」の道筋を作ったのが、日本人起業家の米田さんとソーシャルベンチャーです。彼らが導入したのは、「蜂(ハチ)」を活用した”心理柵”でした。

象は皮膚が分厚いですが、目や鼻の周りなどの急所を蜂に刺される痛みや、その羽音を嫌がり、近づかなくなる習性があります。 この習性を利用し、研究機関やレンジャーと協力して象の行動経路を特定。さらに人間の生活動線にも配慮しながら、戦略的に養蜂箱を設置していくのです。すると、蜂という「見えない柵」が、象を自然と遠ざけてくれます。

その結果、獣害はなんと8割も削減されたそうです。

「守る」だけでなく、「生み出す」

さらに素晴らしいのは、そこで採れた「蜂蜜」を販売し、収益化を図っている点です。
私も実際に購入しましたが、非常に濃厚で美味しい蜂蜜でした。

害獣対策が、そのままビジネスになる。「守る」だけでなく、価値を「生み出す」。 今後はソーシャルインパクトの拡大や、蜂蜜の収穫量・種類の増加を目指し、ケニアのみならずアフリカ他国への展開も検討されているとのこと。持続可能なモデルの強さを感じました。

「被害者」だったからこそ、生まれた情熱

協力隊員として最も学び深かったのは、米田さんの「現地への溶け込み方」です。

現地パートナーのジョセフさんとの出会いは偶然だったそうですが、彼は誰よりも関心を持ち、半年間無償で働いてくれたといいます。
なぜか。ジョセフさんに話を聞くと、「私自身が、獣害の被害者だったからだ」と答えました。

米田さんが彼らの痛みと文化を深く理解し、マサイの伝統を尊重した上で、日本人ならではの技術とアイデアを持ち込んだからこそ、このプランは受け入れられたのだと思います。
部族が何を大切にしているかを知り、双方良しとなる道を探る」。
傲慢な押し付けではない、国際協力です。
これは、私自身のこれからの活動における、あまりに大きな教訓でした。

シマウマと歩く帰り道

帰り道、一人で歩いていると、野生のシマウマに遭遇しました。
動物と、人間の生活圏がこれほどまでに近い。その「近さ」を平和に維持しているのは、今日見たあの小さな蜂たちと、彼らを配置した人々の知恵なのだと、解決策の重みを肌で感じました。

言葉だけではない、「人間と自然の共生」の実践。 とても貴重なものを見せていただきました。
ありがとうございました。

Wildlife Ventures 公式note|note
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