【ケニア派遣104日目】「隠すな、配れ」。20年目の種菌農家が教える、ケニア式口コミマーケティングの極意

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競合に全てを教える「共創」の精神

今日は朝から、マッシュルームを栽培している先進農家の元を訪れました。 ヒアリングのトピックは大きく3つ。「コスト」「生産におけるポイント」「売り方(販路)」です。

驚いたのは、彼のオープンな姿勢です。 コスト構造から、生産におけるリスク、そしてその具体的な対処法まで、将来的に競合になり得るかもしれない私に対して、何の躊躇もなく全てのノウハウを共有してくれました。

知識や技術を囲い込んで一人勝ちしようとするのではなく、惜しみなく分け与え、より多くの人の幸福を模索する。そこには確かな「共創」の精神がありました。そのオープンソースな姿勢は純粋に美しく、私も彼らから頂いた知識をまずは現場で成功させ、恩返しとして何かしらの価値を提供できるようになりたいと強く思いました。

WhatsApp経済圏という販路

気になる「売り方」について。 基本的には中間業者を通さず、顧客に直接売る「D2C(Direct to Consumer)」の形態をとっているとのこと。

そして、その主戦場となるのが「WhatsApp(LINEのようなメッセージアプリ)」です。 彼らには農家やバイヤーを繋ぐ巨大なWhatsAppのグループネットワークがあり、それは「東アフリカ全体 → ケニア全国 → カウンティ(郡) → サブカウンティ → ワード(区)」と、見事に階層化されているそうです。 特にカウンティレベルのグループは非常に活発で、そこで在庫状況を発信し、ダイレクトに顧客を見つけているのだとか。

先日から構想していた「農家向け掲示板」のヒントが、すでにこれほどシステマチックに実社会で機能していることに驚かされました。

AIスマート農業の理想と、オフラインの現実

事務所に戻ると、机の上に「AIのスマート農業」に関するパンフレットが置かれていました。 近隣で活動するNGOが推進しているプロジェクトらしく、すでに約400の農家でトライアルを実施しているとのこと。スマホで撮影した作物の画像データをAIで解析し、病気の種類や状態を診断するという、極めて先進的な取り組みです。

「ケニアの田舎で、いきなりそこまで飛躍するのか!」と胸が躍りました。 しかし、同時に疑問も湧いてきます。 このマトゥング周辺は、インターネットインフラが全く整っていません。そもそもスマホを持っていない、あるいは通信量(データバンドル)を買えずにオフラインで生きている農家が大半です。そんな環境下で、このAI診断がどこまで実用化し、スケールするのか。 理想と現実のギャップは大きそうですが、テクノロジーで一気に課題を飛び越える「リープフロッグ現象」の萌芽を感じます。いつか直接、担当者に話を聞いてみたいと思います。

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1時間遅刻の種菌農家と、20年の経験値

夕方16時からは、マッシュルームの「種菌(Spawn)」を専門に扱う農家さんとミーティングの約束をしていました。

しかし、時間になっても現れません。 電話をすると「あと20分」「あと10分」というお決まりの返事。結局彼が現れたのは17時15分頃でした。 遅刻の理由は「バイクが壊れて修理していたから」。ケニアでは日常茶飯事なので、「しょうがない」と笑って受け流します。

遅い時間からのスタートになりましたが、そこからの1時間半は極めて有意義でした。 彼は20年以上もマッシュルーム専門の農家をしており、無数のトライアル・アンド・エラーを繰り返してきたそうです。私がぶつけるマニアックな質問に対しても、経験に裏打ちされた的確な回答が即座に返ってきます。 やはり、失敗も含めた「圧倒的な経験値」からしか見えない景色というものがあるのだと唸らされました。

サトウキビのカスを使って培地を作ります。

ケニア式マーケティング:「隠すな、配れ」

彼から教わった「マッシュルームを売るための戦略」は、極めてケニアらしい泥臭いものでした。 それは徹底した「リファラル(口コミマーケティング)」です。

 「最初は家族や教会、病院などに、とにかく提供しなさい。そこから口コミで味や存在が広まっていく。そうすれば、誰かが『このキノコ、どこで手に入るんだ?』となった時に、第一想起になる

だからこそ、「自分はマッシュルームを作っている」ということを絶対に隠さず、あらゆる人に言いふらした方がいいという強烈なアドバイスをもらいました。

そして、彼が語る小規模農家の成功要因は以下の2点。

  1. 隠さないこと(認知と口コミを作る)
  2. 簡単に手に入る安価な材料でやること(継続性を担保する)

高い機材や外部の資材に頼るのではなく、とにかく「地元で手に入る安い素材」を使ってトライアルを重ねることが、継続への絶対条件だと言います。日本の「完璧な設備を整えてから始める」という常識とは真逆ですが、この環境においてはそれが正しいアプローチだそうです。

彼からは今後、種菌を提供してもらえることになり、強力なメンターを得ることができました。

油の入っていたケースなども培地に使えるそう。

英語の壁を越えるトライ

ミーティングが終わったのは19時頃。すっかり外は暗くなっていました。 振り返ってみれば、今日は朝から晩まで、ひたすら英語でコミュニケーションを取り続けた1日でした。

脳は心地よく疲労していますが、同時に確かな手応えも感じています。まだまだ私の英語力は足りませんが、マッシュルームの専門的な話でも、聞きたいことはしっかりと聞けましたし、相手の意図も汲み取れました。

言葉の壁にひるまず、こうして泥臭くトライを続けていけば、何とかなる。
ケニアの農家たちの「隠さない精神」に背中を押されながら、明日からももまた足を動かします。

豚と茶畑。

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